人魚姫の後悔
ルーシィに突き飛ばされるような形で海にダイブしたグレイ。
そのことに不満を抱きつつ海を泳ぐ。
何匹か魚やイルカなどといった海の生物達に道を聞きながら、先ほどのルーシィとの会話を思い返していた。
***
この状況の原因は、あの依頼書を読んだことにあるだろう。
前にナツの野郎が読んだ時…確か、チェンジリング…は、色んな意味でやばかった。
今考えると、本当にあん時のオレを殴りたい。
この妙な脱ぎグセを、ルーシィの身体で…マジ、後少しで野郎どもの前でルーシィの身体を…
……やめよう。
あの依頼書の依頼主がゴールだとして…まずはナツとエルザを探す。
まあ、探すつっても、今はおとぎ話通りに進むしか、方法はなさそうだがな。
「その為には、さっさと人の足にしてもらわねーと…お?」
魚達の数も減り、怪しげな深海魚のようなものが回遊している、さらにその奥。
怪物が口を大きく開けたような形をした洞窟があった。
「あれが…魔女の住処か」
洞窟へと進みながら、グレイはルーシィと話した『人魚姫』について、考えた。
***
人魚姫は王子を助けても、他の姫に王子をとられて泡になる。
オレが知っている人魚姫の話は、いわば『悲恋バージョン』。
ルーシィが知っている物語は、王子と人魚姫が結ばれる…ハッピーエンドってやつ。
ーー「……もしここで、バットエンドなんてことになったら…グレイは海の泡になる、のかしら?」
「……」
ルーシィの考えに、絶句するしかなかった。
ーー「で、でも、泡になるだなんて、そんなこと…」
ーー「……ルーシィ」
あの時のルーシィの瞳…悲しみに溢れ、懇願しているような…あと少しで涙が零れる。
そう思った瞬間、オレはルーシィの肩をもって口を開いていた。
ーー「今すぐ、オレと結婚してくれ」
理性なんて、あったもんじゃない。
気付けばその涙を止めたくて…
ただその唇を奪いたくて…
徐々に近づく距離。
ーー「っ、バカ!!」
ーー「ぅお!?」
…は、全力で開いたけどな。
人間の足ではなく、魚のそれであったために踏ん張りがきかず、海へドッポーン!とうしろから倒れた。
ルーシィは怒っていないと言ったが、確実に怒っていた。
海に落とされて、欠いていた冷静さと理性を取り戻した今ならわかる。
勝手にキスを迫ったこと。そして何より…
『結婚してくれ』
そう言ったこと。
人魚姫が泡にならない方法は、人魚姫と王子様が結ばれることだ。そしてこれは、オレの願望。
オレが泡になるかもと言ったあのルーシィの悲しそうな瞳に、オレは勝手に自惚れた。
オレのことが好きだから…だなんて、情けねぇ。
仲間だから…なのにな。
こんな時でしか言えない…いや、言えていない。
結婚だなんて言う前に、伝えるべき気持ちすら言えない。
だからルーシィは怒ったんだろう…
あれはまるで、ルーシィを利用しようとするような言い方だった…。
「…オレは自分のエゴで、ルーシィを傷付けちまったんだろうな」
そう自嘲気味に笑うと、前を見据えた。
「マグノリアに帰ったら、ルーシィに言えばいいさ…ごめん、と…
愛してる、って」
目指すは、魔女のもと……。
[続く]
ーーーーーーー
2015.01.30
[*prev] [next#]
[ mokuji]
[しおりを挟む]