二人の姫君(1/2)




薄っすらと開いた目でみたのは、真っ暗闇。


肌に直接感じるのは、冷たい流れ。



そういえばあたし、海に投げ出されたんだっけ…




ヤバい状況だと頭では分かっていても、身体は一切動かない。


ゴポッと口から吐き出された泡の向こうに人影が見えた気がして、右手を伸ばしたい衝動に駆られるも、ピクリとも動く気配がない。






(助け、て…)


ふと過ぎった黒髪は、さっきまで一緒にいた彼の姿だった。


***





(ーーおい、ルーシィ!)



遠くから名前を呼ばれている気がする…誰?



(ーールーシィ、しっかりしろ!)



それにしてもこの感覚、つい最近経験したような…




(ーーちっ。やっぱ、……しか、ねぇ…よな?)



最近って?



(ーールーシィのため、だ…)



えっと、あれは船の上。



(ーー悪ぃ、ルーシィ…)



そうそう、こんな風に肩を掴まれて……









何故か頭上が陰った。
ふと蘇った背中への痛みを思い出し、目を開く。





「あた、し…生きて」




る?とルーシィはほっぺたを軽く抓ってみる。

うん、痛い…

幾分ボーッとする頭を回して、辺りを観察してみた。
背にはゴツゴツした岩場、その後ろには白い砂浜が広がる。草木も生え、小鳥が囀る長閑な光景。

前に視線を戻せば、憎たらしいほどに輝く太陽によって、キラキラと光を反射させる群青。その中に、黒髪の一人の男の後ろ姿。

先ほどまでずっと一緒にいたブレイブ。





「あ、もしかして、あたしを助けてくれたの?」





ルーシィの問いに頷く彼は、耳が真っ赤。

…照れてる?
船の上であんなこと言ったそばだったから、かな。

船の上でのやり取りを思い出したためか、ルーシィの頬も朱に染まる。



本当は、あたしだって恥ずかしいけど、お礼はちゃんと言わないと…よね。





「ありがとう、ブレイブ!」




助かったわ!とルーシィはとびきりの笑顔で言う。

しかし…





「ちょっと、ブレイブ?聞いてる?」





彼は振り向くことすらしない。





「……れだよ」

「え?」

「ブレイブ…って、誰だよ?」





そう言って振り返った彼。





「うそ…」




思わず目を見開くルーシィ。


漆黒の髪に、漆黒の瞳。

左眉を割くように刻まれた傷。

そして、胸には青い妖精ーー

その全てを備える彼こそ…






「……グレイ…?」





ーールーシィが最も逢いたいと切望していた彼…グレイ・フルバスターその人であった。



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