人は運命を選べない







本来ならば透き通るような水色と、澄み渡った青とが包む世界は今、黒一色になっていた。


本の僅かな街灯と、星と月の輝きだけが、足元を照らしている。



D・ホイールに乗って受ける風とはまた違ったそれが、髪を靡かせる。

そのD・ホイールも置いて来たのだが。



《ここ》に来たのは突然のことだった。


だから、《ここ》からいなくなるのも突然なのは、仕方ない事なのかもしれない。



《ここ》は本来、私の居場所ではない。


だから、私がいなくなったところで、何の問題にもならない筈なのに…




「こんな時間に、こんな所で、何をしているの?」

『アキ…』



神様は意地悪だ。



『アキこそどうしたの?早く帰らないと皆心配するよ?』

「質問に質問で返さないで。なまえ、一緒に帰りましょう」




アキが一歩近づくのに伴って、一歩後退する。



『ごめん。それは出来ないよ』

「どうして!」

『タイムリミットなんだ』

「え?」




おもむろにデュエルディスクを構える。

といっても、デュエルをする訳ではない。

デッキの一番上のカードをドローする。見なくても、何のカードかは分かっている。




「なまえ?」

『もう船の出る時間みたい』

「船なんて、どこにも」



アキの言葉を遮るように、引いたカードを掲げる。

するとカードから、溢れんばかりの光が辺りを包み込む。

そして、海辺に現れたのは、大きな船。



「何!?」

『……《王国への船出》だよ。私はこれに乗らなくちゃいけない』



私が《ここ》へ来たのは、船に乗ったから。

この船が何処へ行くかは知らない。

けれど、この船に乗らなくてはならない。


それが私の運命だから。




『じゃあね、アキ。皆のこと…よろしくね』



よろしく、なんて、何様だろうか。それでも、《ここ》にいる間、抱いてはいけない感情を持ってしまったから。

いつかこの時が来ると知っていたというのに。





「何それ…私に別れの言葉を託すの?」

『そうだね』

「……かせない」

『アキ…?』

「行かせるわけには…いかない!」



叫ぶように言うと、デュエルディスクを構えるアキ。

本来なら、デュエルで応戦すべきなのだろう。それはデュエリストとしての運命。

しかし、船が一瞬揺らぐのを見てしまった以上、本当に時間が無いのだ。

これに乗らなければ、私は《ここ》から《消える》のではなく、抗い様の無い何かに《消されて》しまう。

私の存在そのものが無くなったら…私のこの気持ちも、消えてしまう。

もしかしたら、みんなの中から…彼の中から、私という存在も消えて無くなるかもしれない。


それは別れよりも辛い。


胸を暖かくするはずの気持ちのせいで、これからキリキリとした痛みが待っていると分かってはいても。



『本当にごめん…いつかまた、《ここ》に来た時に文句は聞くから…今はチート技、使うね?』



デュエルディスクに、二体のシンクロモンスターを出す。普通のデュエルならば有り得ないことだが。



「《スターダスト・ドラゴン》《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!?」

『二体とも、私のドラゴンだよ。遊星とジャックのとは別…と言っても、信じられないかもしれないけど』



呆然とするアキに苦笑しつつも、続ける。



『私は二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚!ランク8《神龍騎士フェルグラント》!』




《神龍騎士フェルグラント》の背に飛び乗ると、船に向かって一気に駆け出す。


遥か後ろから、私の名前を叫ぶ声……アキではなく、彼の声。


幻聴なんかじゃない。だから余計振り向け無い。


唇を噛み締め、上を向く。涙を零す訳にはいかない。


そっと、言葉を残す。




『好きになって、ごめんなさい』



効果を発動した訳ではないのに、《フェルグラント》のオーバーレイユニットが一つ、下に落ちていった。

星のような輝きを持つ、一つの発光体。

さっきの言葉を、彼に届けるつもりなのだろうか…


光に飲み込まれた私には、わからない。


次の行き先も、彼らの未来も…




人は運命を選べない

(それは、私だけかもしれない)

(彼らはいつも、自分達で未来を選んできたのだから)

End?
ーーーーーーー
こんな感じの夢を見ました。
オチは遊星かジャック、お好みで!
タイトルは「秋桜」様からお借りしました。
2017.3.10

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