こんなにも心が痛むのに、気づかない振りをして




※グレルー←ジーク
※『もしもと叫ぶ小さなオレ』のジークレインSide




ガコン。


グレイの手から放たれたボールはリングに当たったものの、弾かれてしまう。虚しくも下に落下したボールに、チームメイトが手を伸ばすが、一歩及ばず。

相手チームにリバウンドを取られ、グレイは思い切り舌打ちした。





「なんかグレイのやつ、調子悪い?」

「たまたまだろ。スリーだったし」





ベンチで待つ選手達の言葉に、ルーシィは確信する。


今日のグレイは、確実に本調子ではない…と。

いつもより、シュートのフォームも崩れているし、飛距離だって違う。それに、グレイはあの場面でスリーを外すような人じゃない。

それがルーシィの見解であった。


そしてルーシィがその試合中、他の選手のことなど気にもとめず、グレイばかり食い入るように見ていた。




ビーーーッ!



得点板に内蔵されたブザーが鳴り響く、その時まで。




そのことを、グレイは知らない。


そして、そんな彼女を見つめる男がいたことを、誰も知らないのだった……。




***





「ナツのヤロウ…やっぱり先に帰ったんだな。試合の反省会っつたのによ」

「あたし、ナツのこと呼び戻しに…」

「いや、いい。ナツは明日朝一でしめる。ルーシィはあがっていいぜ?オレとグレイは少し自主練してから帰る…それとも送ろうか」

「大丈夫、心配しないで。それじゃ、先に帰るけど、無理しちゃだめよ?」

「それこそ大丈夫だ、心配するな」




公式戦では無く、他校との練習試合。だからといって反省会をすっぽかすとは…オレの幼馴染み共は本当に手がかかる。

そう、ナツだけじゃない。

手がかかるのはこいつも、何だよな…オレと会話しているようで、視線はチラチラとオレの後ろーー正しくは、後ろのコートでシュート練しているグレイに向けられている。

しかも、ルーシィの視線がオレの方を向いているときに限って、グレイからの視線を感じる。

…お前ら態となのか。


っと。グレイの視線が外れた今がチャンスか……


グレイには気付かれ無いよう、小声でルーシィを呼ぶ。




「ルーシィ」

「ん?なに?」




特に疑問にも思わず、同じぐらいの声量で返すルーシィは、幼馴染みとしての贔屓無しに、いいやつだと思う。




「残ろう…と、思ったがオレは帰る。五分くらいどっか行ってろ。グレイと少し話したら、あいつ一人だけ残しとくからな」

「え?」

「……あいつに何か言いたんだろ?」

「っ!?な、んで…」

「何年幼なじみやってると思ってるんだ。それにお前、グレイのこと見過ぎだ。少しは気を付けろ」

「へ……えぇっ!?」

「わかったらさっさと行け」




とりあえずルーシィの背中を押して、出口に向かわせる。

どうも納得していないような顔で振り返ってくるが、片手で追っ払う。

これは一応、お前の…いや、お前らのためなんだぞ。


丁度ルーシィが体育館から姿を消した瞬間、一度も音を立てることの無かったゴールリングがけたたましく響いた。


ただただリングを睨み付けているグレイは、今日の試合で外したあの時と同じに見えた。

それは多分、本人もそう思っているんだろうな……。




「どうしたグレイ、手が止まってるぞ?」

「……別に何でも…」



なんて素直な男なんだろうか。

言葉から見えるイライラは…シュートを外したこと。それと…




「……何笑ってやがる」

「いや、面白いなと思って」

「はぁ?」

「あててやろうか?







お前、ナツやオレに嫉妬してんだろ?」

「はぁ?なんでオレが嫉妬なんて…オレは練習の続きをする。ようがないならさっさと帰れよ」

「お前…自分の気持ちに気付いてないってわけじゃ、ねーんだろ?」




慌ててシュート練習を再開しようとしているのがバレバレだ。

こいつは無意識なのか知らないが、あいつ、ルーシィが目の前にいると、どうも大胆なプレイをする。

シュートは勿論、ブロックの勢い、パスの速さ、ドリブルの鋭さ…どれをとっても変化があらわれる。


そしてその変化は、グレイの気持ち次第でまた違ってくる。


ルーシィにいいとこを見せようとしたしなやかな動きだったり、嫉妬のせいで荒々しい動きだったり…


変化は武器だ。

だが、毎度毎度、ピーキーな動きされてちゃ、それは諸刃の剣。最悪、ただの自傷行為。


グレイには、その武器を手に入れてもらわなければ困る。




「まあいい。オレからしてみれば、その方が好都合だしな…じゃあな」



グレイに背を向ける。

体育館口から出れば、俯いたルーシィがいた。

…さてはこいつ、ずっといたな…。




「ほら、行ってこいよ」

「ねぇ、ジーク、さっきのって…」

「さっき?」

「好都合とか…あれってまるで、ジークがあたしのこと、」

「お前…


それは流石に自意識過剰過ぎるだろう」

「なっ!?」

「自信があることはいいことだけどな。間違っても過信と慢心はするなよ。まぁ、あんだけオレがお膳立てしたんだ、頑張ってこい」

「ありがとう…ジーク!」

「……ああ」




ルーシィは体育館へとかけて行く。

ルーシィの遠ざかる背に、手をかざす。


さっきも言ったが、グレイには、武器を手に入れてもらわなければ困る…

部のために、ひいてはオレのために。

だから、キャプテンとして出来ることは全てする。

オレの手で押せる背中は、全て押してやる。


こんなにも心が痛むのに、気づかない振りをして
(明日も明後日も…オレは幼馴染みで居続ける)
End
ーーーーーーー

30000Hit記念企画『もしもと叫ぶ小さなオレ』のジークレインSide

我がサイトは影の立役になるキャラが多いな…(笑)

2017.6.27

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