解き放った紙飛行機






※未来







「退屈ですね…」

『折角の休暇ですし、外出してはいかがですか?』





ソファに長い足を優雅に組みながらぼやく男は、背凭れに乗せていた頭を起こすと、自分の直属の部下であり、彼女でもあるナマエを見つめた。

茶ブチのメガネを押し上げ髪を耳にかける彼女の手には、書類の束が。


先ほどから名前を呼んでも、曖昧な返事ばかりかえす彼女に、骸はむすっとした表情を浮かべていた。もちろん、書類だけに目を向けているナマエは知る由も無い。






「……ナマエも行きませんか?」

『私にはまだ仕事が残ってますし…ご一緒するのは難しいかと…』

「何ですか。彼氏よりも仕事ですか?」

『…意地悪言わないで下さい』





まさか世の女性が口にするであろう言葉が自分にかけられるとは思いもよらず、ナマエはつい手を止めてしまうが、必死で仕事を進める。これさえ終われば、羽根を伸ばせるのだ。

私と仕事、どっちが大切なの!?

と昼ドラ並に怒鳴る前に考えて欲しいものだ。



不思議と大人しくなった骸に、これ幸いと手を進めるナマエ。紙を織るような音がするくらいで、特に気にも止まらない。







「ナマエ…」

『なんですか?』






丁度区切りの良いところだったため、ナマエは骸の方に顔を上げた。






『っ、』






瞬間、頬を掠めるようにして、何かが飛んで行った。

振り返って見ると、白い鳥のようなものがインディゴの炎を纏って飛んでいた。


パッと見は霧フクロウのようだが、サイズは雨燕くらいだ。






「ほら、拾って来なさい」

『もう、ここで遊ばないで下さい!何ですか、あれは!』

「紙飛行機ですよ。因みに、今週中に必要な書類で出来てます」

『……』





骸の言葉に、ナマエは自分の身体中の血がサァーッと引いていくのがわかった。

区切りがついたと思っていた書類を、始めからザッと確認する。


一枚、足りない…


その事実に辿り着いたナマエの思考は殆ど完全停止した。






「どうしました?」

『っ!』






戦闘訓練などでたまに見せる骸の不敵な笑みに、ナマエは瞬時に覚醒させると、キッと睨んでから書斎を飛び出す。





『骸さんのバカーー!!!』





絶叫しながら紙飛行機を探す彼女の目には、涙が溢れていた。






「クフフ…彼氏を放置した罰です」



満足気に微笑みながら、骸はナマエが出て行った扉を眺めていた。



解き放った紙飛行機

(僕の所為で困った顔で追いかけていく君が好きで…
紙飛行機を持って帰ってくる頃には、困りつつも許してくれる君が大好きなんです)




自分が紙飛行機という名の重要書類を飛ばした結果、ナマエの仕事が増え、ナマエとの時間がさらに伸びることに骸はまだ気付かない。

End
ーーーーーーー

アホな骸さんでした。
チャンチャン♪

2014.02.21

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