風邪は万病の元






とある真冬の朝のこと。

24時間365日、いつも騒がしいのがここ、妖精の尻尾学園の常である。

にも関わらず、いつも騒ぎの中心にいる彼が、珍しく席で静かに座っていた。


だからこそルーシィは声をかけたのだが、全くこちらを向かない。


…え、うそ、完全スルー?


ドアの後ろから「グレイ様が黄昏ている!」だとか、「恋敵!グレイ様の邪魔をしないで!」だとか、「きっと、私のこと…あーん、ジュビア困っちゃう!」なんて声に触発されたわけではない。

ましてや、わざわざ隣のクラスから来る彼女に優しく接するグレイの姿を思い出し、イラっとしたなんて…そんな軽率な理由で、思わず机を叩いたわけではない。決して。






「ちょっと、グレイ!」

「ん?…何だ、ルーシィか…」

「もう、やっとこっち見たと思ったら、何その反応!」

「…そんなに呼んでたのか?」







ちっとも自分に気付かないグレイに対する怒りは、一瞬にして消え去った。







「大丈夫、グレイ?」

「…あー…風邪の引き始めかもな…」

「うそ!?」





風邪など、滅多に引くことのないグレイに、驚き、慌てておでこで熱を測る。

ルーシィのこの行動にクラスが一瞬にしてざわめいたが、一番焦っているのは、グレイである。






「ばっ!?…んなことしたら、余計熱が上がるに決まってんだろ…!」

「今日のところは帰るわよ!」

「いや、まだ1限じゃねぇか。別にそこまでひどくねーし、いいよ…」

「ダーメ!たかが風邪だって甘く見てると、痛い目に遭うわよ。『風邪は万病の元』!…ほら、立って!」








ガシッとグレイの腕を引っつかむと、無理やり立たせて、自分とグレイのカバンを持つ。

男女の体格差など関係なく、自分が熱だと自覚した瞬間から、グレイには抵抗する力など皆無に等しかった。






「あたしに任せて!今日は付きっきりで看病してあげる!」

「……どうなってもしらねぇぞ」






後日、ぐったりとしたルーシィと、必要以上にピンピンしたグレイがいたそうな……


End

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