白井は社畜だったので、なんやかんやのトラブルで十連勤を終え、やっとの明日は休みだった。疲労も溜まっていたが、それ以上に溜まっていたのは性欲だった。
 自宅の鍵を開けながらネクタイを緩め、ベルトを緩め、服を脱ぎながらそんなに長くない廊下を進む。リビングの扉を開ける頃にはパンイチになっていたが、そこでようやく違和感に気付く。
 白井と同棲している黒根が、普段ならリビングのソファでだらだらとゲームをしたり寝転がっている筈だったが姿が見えなかった。
 なんなら電気すらついておらず、どうやら寝室から出ていないらしい。
 鞄をソファに放り投げ、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し一口飲んだ。冷たさで頭も少しは落ち着くと思ったが、自身は勃起しムラムラは治らない。
 寝室にいるなら、むしろ準備万端で待っているのではないか――そんな淡い期待を抱いた。
 白井は社畜だったが、方や黒根はニートのヒモだった。白井に衣食住を援助してもらう代わりに、性欲発散に付き合っていた。黒根はだらしないタイプのヒモだったのでお膳立てしておくとか、そんな事をこれまでしてくれた事はなかったが、ようやくの十連勤明けだというのも昨晩話していた。
 もしかして、もしかするかも。期待に色々膨らんで、爆発寸前の白井は寝室の扉を開けた。

「黒根……?」
 予想とは裏腹に、寝室は真っ暗だった。電気を付けず、カーテンも閉まったまま。少し落胆したが、興奮がおさまるわけでもない。
 カチン、電気を付けるとこんもりと膨らむベッドの布団。そこにいるのは明らかだった。
「げほっけほ……ん……おかえり白井」
 膨らみからした声は鼻声で弱々しい。
「どうかしたのか」
「んん……なんか熱出てるみたいで」
 白井はベッドに乗り、黒根を見た。電気が眩しいのか目を瞑ったまま答える黒根。顔に手のひらを当てると、明らかに熱が出ているらしい。
「白井の手、きもちい」
 顔に触れた白井の手に、黒根が手を重ねる。へらっ、と笑って言った。
 劣情は爆発した。
「すまない黒根」
 どう見ても体調が悪いらしいが、止められなかった。手を掴み仰向けにした黒根に馬乗りになる。
 シャツを弄りながら首筋に舌を這わせる。汗でしょっぱいし、体温が高い。流石にキスはできなかったが。
「ん……」
 熱で感覚が鈍っているのか、黒根はたいした反応も見せなかった。いつもなら少しの刺激でツンと立つ乳首もいくら撫でて捏ねても柔らかい。しかしそれすらも白井には興奮剤だった。乳首に吸い付き歯を立てながらスウェットをずらした。
 中途半端に脱がせた下着の上から性器を握る。全く勃つ気配はない。
 全身がふにゃふにゃで力が入らないようだった。性器を握って上下しても、玉を手のひらで転がしても、体温は高いのに昂る事はない。
 白井はローションを手のひらに乗せ、手のひら全体を黒根の肛門に擦り付けた。
「う……んん……」
 さすがに黒根も反応を見せたが、抵抗らしい抵抗はない。
「今日トイレ行ったか?」
「んん……一回、水下痢で」
「いつ頃?」
「お前が帰ってくるちょっと前」
「なるほど」
 労うための質問ではない。出したばかりなら洗浄も不要だろう、という参考でしかない。白井はコンドームを指にはめ、黒根の後孔に突き立てた。
「熱いな」
 白井はつぶやいて、数回指を動かすと抜き去る。それから熱り勃つ性器にコンドームを付け、黒根の穴に当てがった。
「やさしくねぇな……」
「ふ……」
 黒根が言ったが、白井は小さく笑った。それから容赦なく突き立てる。
「うう……」
「はあ……」
 黒根は呻き声を上げ、白井は感嘆のため息を吐いた。発熱した黒根の中は熱く、元からの締め付けの良さもあってゴム越しなのが残念だった。
 白井は慣らす間も置かず、ゆすゆすと腰を動かした。
「うっ、う、はぁ、っあ……」
 黒根は苦しそうに息を漏らす。ただでさえ熱で朦朧としているのに、圧迫感がしたから突き上げる。
「やば……きもぢ……わる……」
「吐くならゴミ箱に吐け」
 仰向けだった黒根を無理やりうつ伏せにし、頭をベッド横に出させる。黒根の顔の下にゴミ箱を置いた。
「ううっはあ……はあ……」
「いくぞ」
「ううっぐっうええ……」
 白井は一声かけると黒根の肩を掴んで打ち付ける。容赦のない責めに黒根は吐くというより胃酸が逆流して喉が灼けた。
「はあ、黒根、お前の中、気持ちいいな」
「……っう、ああ、」
 白井に揺さぶられ、黒根は呻く。白井は律動を止め、黒根を抱きしめる。
 黒根は一瞬終わりを期待したが、そうではなかった。疲労のピークに達した白井は心地良さに意識を飛ばしていた。
 酷い有様だった。それから白井は数分うんともすんとも言わずぴくりとも動かない。
「おい……」
 死んだのか、黒根は思った。そして黒根自身も意識が朦朧としている。誰も得しないセックスだった。
 ところが黒根の身体は異変を起こした。弛緩した胎内は白井をさらに奥へと誘う。
「うあ…、」
「黒根………」
 白井が囁いて、ずん、とさらに深くまで押し込まれる。
「っは、あっ……」
 重く深い挿入は、結腸を押し開いた。
「黒根」
 白井がまた呼ぶ。ぶじゅ、ぶじゅ、聞いたこともない深い水音がして、脳幹が痺れるようだった。身体中熱くて溶けてしまいそうなのに、鋭利な刃物で神経を削られるような全身をピリピリと電気が走る。
 おかしくなる。それなのに声は出ず息も上手くできない。ただ甘い幸福が支配した。
「ふは……漏らしてる」
 黒根は全身を強張らせながら、しょろしょろと粗相した。それがどうしようもなく愛しくて、目を見開いて息も絶え絶えに喘ぐ黒根をもっとぐちゃぐちゃにしたくなった。
「黒根、黒根……」
 うなじに歯を立てながら肩を掴んで奥へ奥へ押し上げる。深いところをぐりぐり抉ると、カリ首を食い込む程くびれが締まり胎内は痙攣した。
「はあっ、気持ちいい、黒根、黒根……」
「……ぐほっげほっげほっおえっあっっあっ」
 びくびくと死にかけの魚みたいに跳ねてから黒根は咳をする。白井は黒根の全身を抱きしめて黒根の全身を味わった。
 十日分の性欲を、死に体の黒根にぶつけ、朝を迎える頃には二人とも気絶していた。



――――
 翌々日、黒根はすっかり回復したが白井は逆に熱を出してダウンした。
 そんな白井の勃つ事もできない性器を右手に、左手にはブジーを握り、黒根は舌舐めずりする。
「ごめんね、白井」
「……っぁ、」
 結局同じ穴の狢。発熱で弱り果てた白井の尿道にブジーが挿入される。仰け反る白井。夜は更ける。

終わり

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