「うっわでっか」
 小便器で用を足していた卯雨(うさめ)が、横に立った虎晴(こはる)の立派なそれを見て言い放った。
 失礼にも程がある。虎晴はジロリと睨んでため息をついた。
「よく言われます……」
 虎晴はうんざりとしながら言うので、それは事実なんだろう。失礼だったことに気づいた卯雨が謝ろうとして口を開いた時に、ガヤガヤと複数人の声がトイレに入ってきた。
「あ? いねーと思ったらお前らこんなところで乳繰り合ってんのか」
「つか二人って知り合い?」
 少し素行の悪そうな男が三人、卯雨と虎晴を囲うように立った。二人は首を横に振る。
 二人はそれぞれ、大学の別々のサークルに入っており、それぞれの飲み会に参加していた。そのサークル主催者同士が仲が良く、今回は合同の飲み会となっていた。しかし、半ば強制的に参加させられていた二人はハイペースで盛り上がる周りについていけずトイレに避難していた。
「つーか卯雨ぇ、お前荷物持ってって帰るつもりだったろ? 逃さねーから」
「ぎゃっ」
 短髪を銀に染めた滝(たき)が手を出した。仕舞おうとしていたナニを乱暴に掴まれ、卯雨が悲鳴をあげる。腰が引けて半泣きになっているとゲラゲラ笑いながらさらに強く握った。
 滝は酒臭く酔っているのは確かだったが、元からそういうタイプの人間で、控えめな性格の卯雨は苦手だった。それでも何かとちょっかいをかけてくるし、今回強引に誘ってきたのも滝だ。なんでこんな目に遭っているのか、卯雨は帰りたくてしょうがない。
「あっはは、カワイソー。んじゃまあ、とりあえず二次会といこうか」
 背の高い虎晴よりもガタイの良い柳(やなぎ)が、お前も逃さないよ、と言わんばかりに虎晴と肩を組む。卯雨を助けることも目を逸らすことも出来ないでいた虎晴は、申し訳なさそうに項垂れて、誰にも聞こえない程度にごめんと呟いた。

続く

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