お題箱「はじめてのおつかい」から
※キャラ名、シチュなど使いまわしていますが別の世界線とお考えください
※小スカあり
※冒頭不穏な空気醸してますが前提の話だけなので何事もなく始終ただのスカ重BLです
緒代は拾ってきた少年に「はこ」と名前を付けて飼い殺していた。
食事から排泄まで全ての世話を手ずから行い、事あるごとに愛情を注ぎ、その身体を愛でた。
ずっと家の中にいさせるのもなんだと思い、時折散歩に連れ出すこともある。外の世界へ興味を持つのでは、という一抹の不安もあったが、それにも勝る自信が緒代にはあった。
はこの全ては自分であり、はこの世界は自身である。
そう信じて止まないし、実際にそうだった。はこ自自身、それで何一つ不自由はなく、また、疑いもしなかった。
「ここまでの道は覚えた?」
「覚えた」
緒代がはこを連れてやってきたのは、はこと二人で暮らすマンションから15分ほど歩いた先にある別のマンションだった。
「こっちも俺の家だけど、こっちでは仕事してるから。とは言え、いつでも来ていいよ」
「うん」
はこと手を繋いで、緒代はオートロックの鍵を外す。もう一つの家の鍵とまとめて、はこの首に紐で下げた。
「おいで、はこ」
簡易なキッチン、ユニットバストイレ。あとはただ広い空間の部屋に置かれたソファに緒代は座り、はこを誘う。
嬉しそうにはこは緒代の足に跨り、与えられるキスを待った。
それから、緒代は仕事部屋、はこは居住部屋でそれぞれの時間を過ごすようになった。けれど緒代は仕事をしていても食事時には必ずはこの元へ戻るし、長時間かかる時ははこを連れて仕事部屋へ移動した。
結局、はこ一人で外に出ることは今まで無かったのだ。
『はこ、これからそっち戻るけどお昼はなに食べたい?』
そんなある日の昼前、緒代がチャットではこに聞いた。簡易な通信機器により電話とチャットの使い方を教わっているはこは、緒代と連絡を取り合っている。
『ぼくがそっちにいきたい』
『そう?お昼ご飯も買える?』
『買える』
『じゃあここに来る途中にスーパーがあると思うから、そこで好きなお昼を買っておいで。俺のも一緒に頼むよ』
『何食べたい?』
『はこのと一緒でいいよ』
『わかった』
『気をつけて来てね。わからない事があったらすぐ電話して』
はこはそのチャットに、ミニキャラがサムズアップしたスタンプを返してすぐに家を出た。
はこの持つ通信機器には電子マネーの機能も付いている。以前何度か一緒に買い物もしたので、昼を買うのは問題なく出来た。
オムライスが二つにサラダが二つ。得意げになってふんふんと鼻歌を歌っている。
そんなはこだったけれど、サッと血の気が引いた。
前の方に歩いてる人が連れている、二匹の大型犬。きちんとリードに繋がれ躾けられた犬だったが、自分の腰の高さよりも大きい犬に足がすくんだ。
幼少期に犬に追いかけ回された過去を思い出す。噛まれる寸前のところで飼い主に引っ張られていったが、その時の恐怖は拭えたものではない。
ビクビクと怖がりながら、それでも早く緒代のところに行きたい。それらの感情に板挟みになって、ぐっと息を堪えながら横を早歩きで抜けていく。
一瞬ぴくりと犬がこちらを向いて動いたような気がして、思わず駆け出す。結局のところ吠えられもしなかったけれど、未だ動機が止まない。
ピンポーン。部屋のベルが鳴らされ、緒代が玄関に向かった。来ると言われてからGPS機能で見守っていたが、途中不自然なとろこで止まってしまった為少し心配していたところだった。
ドアを開けると、青ざめたはこがぶつかる勢いで抱きつく。
「ひうっ……」
「よしよし、どうしたどうした。頑張ってここまで来たんだね。偉いよ」
しがみついたはこの頭を撫でる。買ってきた昼食が背中の側で偏っているらしいが、そんな事よりもはこが無事に着いて何よりだった。
「はこ」
名前を呼んで頭を撫で続けると、しょろしょろと音がした。
怖かったからか、嬉しかったからか、はこの足元はみるみる水溜りを広げていった。
そんなはこすら愛おしい、緒代は微笑んで見つめた。
終わり
戻る
戻る