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 下戸に、自宅を防音にしたと言われた時は、あいついよいよキマってんなと思ったものだ。
 おかげさまで、これから何があろうと、泣こうが叫ぼうが誰も助けには来ないのだから。

ーこさんがつー

 たまにはお前の家で飲もう、カキクにも飲ませてみろよ、酔っ払ったら面白いかもだろ。
 そんな適当な誘いですぐノってしまう下戸という男は、やはりどこか抜けていると思う。
 すっかり酔っ払ったのは下戸本人で、今は机に突っ伏してむにゃむにゃと寝言でうるさい。よくは聞き取れないが、十中八九カキクのことを言っているに違いない。
 そんな下戸の両腕を背中側で固定する。なにせ、拘束具はヒく程種類があった。本革のベルトタイプの拘束具は質感が良く、装着するのも外すのも手がかかる本格的なものだった。まさかそれを自分が付けられるとは、下戸も思ってはいなかっただろう。
 足はどうするか、拘束無しでも構わないけれど。
 考えていると、ベッドで寝ていたカキクが目を覚ましたらしい。結局カキクは酒の一滴も飲まなかったが、布団で眠り続けていた。
 俺は可哀想なカキクの頭側に腰掛け、頭を手で軽く包むように抑えた。
「例えば下戸に、下戸とカキクどっちが犠牲になるか聞いたら、あいつは即答で自分が犠牲になるって言うと思うんだ」
 混乱しているカキクは、動けないまま目だけキョロキョロと動かした。俺が声を出すまで、触れているのが俺だとも気付いていなかったに違いない。
「それで、カキク。お前はどっち?」
「……?」
 全く理解できていないであろうカキクの耳元に、しっかりと囁きかけてやる。
「抵抗するならこっちも遠慮しないし。俺、お前のこと嫌いだから手加減出来ないだろうな」
 びくりと、カキクの身体が強張るのがわかった。怯える様子が卑屈で、どうにも痛めつけてやりたいと、加虐心が湧き上がる。
「お前が身体差し出すか、それとも下戸のこと差し出すか。お前は、どっちを選ぶ?」
 目を見開いて、俺を怯えた表情で見つめる。
 安心しろよ、どっちを選んだところで、俺が興味持ってるのは下戸だけなんだから。
 そんな俺の本心が伝わったかどうかは知らないが、カキクは震える声で、やだ、と言った。
「ん?よくわかんねーな。なあ、カキク。痛いの嫌だよな」
「や、やだ……」
「俺さ、下戸にだったらスッッッゴク優しくしてやれると思うんだ。カキクだって痛いのは嫌だろ?」
 ほとんど泣いているカキクは頭を縦に振った。
「カキクが死ぬほど辛いの我慢するか、それともカキクの代わりに下戸に辛い思いしてもらうか。もう一回言うけど、下戸になら、俺、優しくしてやるし」
 だから、下戸に頑張ってもらおうか?
 そう耳元で囁いてやる。カキクは緊張からか、ハッハッと犬みたいに荒い呼吸をして、躊躇いながら頷いた。
 俺は自然と口元が上がって、ほくそ笑んだ。
「お前はお前の保身の為に、下戸のこと差し出すクズ野郎だ。そのこと一生、忘れんなよ」
 ぽんぽんと頭を撫でてやり、ベッドから立ち上がる。
 カキクはぎゅっと身体を丸めて小さくなり、手で顔を覆って嗚咽を零した。
 お前が自分のために下戸を差し出したって、下戸は、恨みもしないだろうけれど。カキクにはそんなこと、わからないだろう。
 下戸に、どれだけ思われてるかなんて。

 一応カキクの手足もベルトで拘束しておき、ベッドに転がす。
 まだなにも始まっていない。
 これからどうしようか。
 泥酔して起きない下戸を見ながら、頭の中でしたいことが山ほど駆け巡る。
 これから始まる監禁生活に、胸が高鳴った。

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