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「きみ、最近よくこの辺にいるよね。お家はどのへん?」
「さあ……忘れちゃった」
僕が答えるとお巡りさんは渋い顔をした。でも本当に忘れてしまった。思い出したくない。昨日までのことも忘れてしまいたい。
僕はただ、幸せになりたいだけなんだ。
「あのおじさんとどこ行くつもりだったの?」
「……」
「あのおじさんだけじゃないよね。色んなおじさんと歩いてるところ見たよ」
「おじさんと歩いたらいけないの?」
お巡りさんは優しく笑って僕に言う。
「歩くだけならいけないことはない。でもそれだけじゃないよね」
僕が答えないのを肯定と捉えたお巡りさんはそのまま話を続けた。
「きみがやっていることは犯罪だ。おじさんがやっていることも犯罪だ。わかるかい?」
わからない。なに一つわからない。僕は首を横に振る。
「あのね、身体を売るなんてしたらいけないことなんだよ。大人はそれを知ってるからね、知ってて悪いことをする大人に、着いて行ったらだめだ」
「売ってない」
「嘘はいけないな」
「売ってない……ごはん食べて、お風呂入って、お布団で寝るだけだよ」
「……だからね、」
「僕は普通に、幸せになりたいだけなのに……だめなんだ……僕が幸せになったら、だ、だめなんだ……だから……お巡りさん怒る……だから、だからおとうさ、おとうさんも、」
言いながら涙が止まらなくなった。
僕は幸せになっちゃいけないんだ。僕が幸せになるのは悪いことなんだ。だからお父さんも死んだ。お巡りさんに逮捕された。僕が幸せになるのは犯罪なんだ。僕は幸せになっちゃいけないんだ。美味しいご飯も、ぽかぽかお風呂も、あったかい布団も。僕はどれももらう権利なんてないんだ。
「落ち着いて、そんなこと言ってないから」
肩にお巡りさんの手が触れた瞬間、僕の中で何かが弾けた。お巡りさんの手を弾いて、僕は狂ったように喚き散らす。狂ってしまっていたんだ。狂ってしまいたかったんだ。
「助けてくれなかったのに!誰も!!僕のことなんか助けてくれないのに!!幸せになりたかっただけなのに普通に生きたかっただけなのになんで!なんで、なんで、だめって、全部だめってだったらなんで、助けてくれない、のに、」
お巡りさんはなにも言わないで僕を見つめた。喚き散らす僕を、静かに見つめて、聞いていた。
「もうやだぁ……」
「気付いてあげられなくて、申し訳なかった。今はもう、大丈夫だから」
助けて欲しかった。ただそれだけだった。
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