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 頭を揺り動かされて、終わった後に僕は川で嘔吐した。胃の中は空っぽだから胃液しか出ない。喉がやかれて痛かった。
 弟は心配そうに僕を見た。とても食べる気にはなれないおにぎりを弟にあげる。何度口を濯いでも、気持ち悪さは拭えなかった。
 それでも行くところがなく、なにより面倒を見てくれる人が出来たことでそこから離れられなくなる。男の人の性器を舐めることは数日で慣れた。舐める前にせめて身体を洗ってから、そうお願いすれば男はそうしてくれた。

 男の元で暮らすようになって一週間が過ぎた頃、男は僕を街に引っ張っていった。相変わらず汚い身なり、水だけでは洗い落とせない臭いが気になった。
「お前はここで立ってろ。話しかけられたらそいつに着いていけ。最初にいくら貰えるのか聞いておくんだ。言われたことには従え、出来るな」
 繁華街から一本脇道にそれた路地裏、換気扇から漏れ出る熱でむんむんしている。僕はそこに一人で置いていかれて不安になったが、出来ないとは言えなかった。
 今頃弟はあの川で、なにも考えずおにぎりを食べているんだろう。男にお願いして、弟には手を出さないで欲しいと頼み込んだ。代わりに僕がなんでもするから、弟だけは。
 そうして連れて来られたから、僕は従うしかない。
 道の先、明るい繁華街を歩く親子。僕と同じくらいの年の、楽しそうな顔。羨ましくて、憎くて、苦しい。
「きみ」
「……」
 急に話しかけられて身体がびくりと跳ねた。いつの間にか真後ろまで迫っていた男に肩を掴まれる。ワイシャツを着たサラリーマン風の男で、30代前半くらいだろうか。
「おじさんとご飯食べに行くかい」
「……お金」
「ああ、お小遣いならあげるよ」
 貼り付けたような笑顔が薄気味悪い。僕は頷いて、おじさんに手を引かれて路地の奥に入った。
 明るい繁華街の通りが遠ざかる。

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