二十代最期のクリスマスにサンタコスしたら好きな人に抱かれた
ハッと目を覚まして恐る恐る横を見る。可愛い寝顔を晒すその人に、夢だけど夢じゃなかった的な感動と悲しみがこみ上げた。
おれが住むアパート、隣の部屋の須藤くんに今朝方オナホ扱いされてケツを食われた訳ですが。
何がどうしてこうなったのか、ああ、ああそうですよ、どうせおれが悪いんですよ。
何が悲しくて独り身の男同士が集まってクリスマスパーティーなんかしなくちゃならないんだ。どうせおれはゲイだし、好きな相手はノンケだし。ヤケになって酒を煽って、誰が持ってきたのかミニスカサンタコスをさせられて。
酔って騒いでの宴会を、ふらふらの足取りで帰宅したクリスマスの朝。着てたものも荷物も全部飲み屋に置いてきて、鍵も無く部屋のドアが開かないし、もういいよとその場で眠りこけた。
のが運の尽き。いや、運が良かったのかなんなのか。
「そうか、サンタはいたのか」
なんて言葉を夢うつつに聞いていたかと思えば、ひっそり恋していた隣に住む須藤くんがおれを部屋に連れ込んだ。
サンタっておれのこと?なんだ可愛いじゃん、なんて思っていると手足を拘束され、気が付けば身体をまさぐられ……。
「意外に野獣……」
眠る表情は安らかで、いっそ可愛いくらいなのに。執拗にイかされ、中出しされ、そんな情事を思い出すと赤面した。
それでも、チラリと顔を見ると、やっぱりおれの好みの顔なのだ。
須藤くんはバイトの時間が深夜帯らしく、活動時間が違うから顔を合わせる事は滅多になかった。ちゃんと顔を合わしたのも、おれがここに越してきて挨拶した時くらいだ。無愛想ながらも整った顔、声、筋肉、それら全部がおれの好みドンピシャで、言うなれば一目惚れ。でも相手は当然ノンケなわけで、毎晩薄い壁越しに聞こえる生活音を聴きながらひっそり思い続けるだけの日々だった。
「ん……」
「あ……」
小さく呻いて目を覚ます、須藤くんとバチリと目が合った。
「どうした、腹痛いか。中出ししたの、奥のは取れなかったか」
「あ、いや、それは大丈夫……ありがとう」
さす、と布団の中で須藤くんの手がおれの横っ腹を撫でた。
なんだよ気遣いが紳士じゃないか。思わず惚れそうになる。いや、すでに惚れている。
「よかった」
眠いのか、須藤くんは目をつぶりながら小さく微笑む。可愛い、なんてときめいたおれの身体を力強く抱き寄せ、身体がぴとりと密着する。
「す、須藤くん……?」
おれの戸惑いなんてよそに、彼はすでに寝息を立てていた。
ああ、なんてこった、きっかけはどうあれ、こんな現状天国から抜け出せるわけがない。
おれもそっと須藤くんの背中に腕を回し、寝息に誘われるまま二度寝した。
再び目が覚めると隣に須藤くんは居なくて、なんだよ結局夢か、いや待て、このベッドはおれのじゃない。なんて考えているといい匂いがしてくる。
「起きたか、飯食う?」
「あ、うん」
キッチンから茶碗を持って須藤くんが言った。小さいテーブルには焼いた肉や唐揚げ、サラダが置いてあって随分地味な色合いだったが美味しそうな匂いが食欲を誘った。
「あっ?! うわ、おれ裸」
ベッドから出ようとして、自分がまだ裸だった事に気付いた。慌てて毛布を羽織ると、おれの分の茶碗と箸を持ってきてくれた須藤くんと目が合う。
「この部屋そんな寒くないだろ」
「そういう問題じゃなくて……服借りてもいいですか」
「無い」
無いってなに?呆気にとられたおれをそのままに、須藤くんはテーブルの前に座り、いただきますと手を合わせた。
え、おれこのままなの?と聞き返す隙さえ見せない須藤くん。テレビをつけて唐揚げを頬張り、何事も無いかのように過ごしている。
なんか……なんかもういいか。
毛布にくるまって恥じらっているのが馬鹿らしくなったおれは、ふうとため息をついて、裸のままテーブルの前に座る。うう、モロ出しで飯って落ち着かない。
正座してもあぐらをかいてもどうにも居心地が悪い。
「あの、パンツくらい借りたい」
裸族じゃ無いし。おれがそう申し出ると、須藤くんは立ち上がり風呂場へ。そして小さな布切れを手に戻ってくる。
「これ、昨日きみが穿いてたやつ」
目の前にぺろんと出されたのは、サンタコスをした時にヤケクソで穿いた、真っ赤なビキニパンツだった。顔が熱くなるのを感じたが、須藤くんが真顔なので、おれも平静を装ってパンツを受け取り、その場で穿いた。
おれなにしてんだろう、クリスマスだってのに。
昨日穿いた時から思っていたが、案の定小さくて大事なところがはみ出てしまう。
「その格好すごくいいよ」
と、須藤くんが胡散臭いセリフを言う。
「須藤くんて変態なんだね」
「俺の名前知ってるんだ」
「えっ?! あの、おれお隣さんなんだけど」
「ふうん」
ふうん、って。とても興味なさそうな反応に少なからず落ち込んだ。仮にも片思いしてきた相手に認知すらされてなかったとは。
「ちょうどいいな。これからもよろしく、オナホくん」
「おっ、おれはオナホじゃない」
とは言え、悪くない関係なのでは。
まあクリスマスだし、少しは浮かれていいんじゃないか。なんて。
終わり
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