2018/04/27(金)

 仕事を終えて午後二時。ダッシュで電車に飛び乗り、空港へ向かう。
 これから僕は一人飛行機に乗り、沖縄へと旅立つ。プレミアムフライデーを活用して金曜の午後から、来週の火曜、水曜と使わずに溜まっている有給を足して、丸々一週間以上の休みを取った。
 少し早めのバカンスに、僕はにやにやとしながら電車に揺られる。
 昼間の電車は空いていて、朝晩のあのすし詰め状態とは雲泥の差だった。のんびりと穏やかな風景に、電車の外を眺めるなんてこともする。なにより、奪い合う必要もないくらい席は空いていた。
 荷物は仕事の鞄だけで、それも空港のロッカーに預けてしまうつもりだった。金ならある、必要なものは向こうで買えばいい。僕に必要なのは、そうだな、あとはビールくらいだ。

 スーツとビールの気楽な旅はようやくスタート地点に立った。
 空港で手荷物検査を秒速で終え、あとは待合所にて、飛行機が来るのを待つだけ。僕は飲もうか飲むまいか考えていた缶ビールを、プシュッと空けた。たしか機内販売でもビールがあったはずだ。まだ時間はあるし、飲んでしまおう。
 ごくっごくっ、喉越しを楽しみ、ぷはーっと飲む。昼間っから飲む酒の贅沢さったら。
「お兄さんいい飲みっぷりだね」
 がた、隣の席に見知らぬ男が座る。待合所の席は他にもいくつか空いているのに、男はわざわざ僕の隣に座ったようだ。
「向こうで仕事じゃないの?」
 男は馴れ馴れしく肩に触れてきたが、いまの僕はとても気分がいい。
「いいえ、ゴーーールデンウィーーークなんで、飲み放題なんです」
「あはは、もう結構酔っ払ってるね」
「違うんです違うんです、沖縄旅行なんて学生の時の修学旅行以来だから、もう、ちょーー楽しみで」
「そうなんだ。泊まるとことか決まってるの?」
「いや、どこ行くかも決めてないから、向こうでてきとーーに決めよっかな、って」
「あー、今の時期結構混むからもう宿埋まってるかもね」
「えっ、えっ、嘘、僕野宿しなくちゃいけないの? うーん、でももうあったかいだろうし平気かな」
「いやいや、野宿危ないって。俺、泊まれるとこ知ってるから来る?」
「えー、ほんとー? あれ、お兄さんは仕事……じゃあなさそう」
 改めて男を見ると、アロハシャツに麻のパンツと、随分リゾートな格好をしている。胸ポケットにはサングラスが入っているし、完全にバカンスだ。
「俺、元々沖縄住んでたんだけど仕事でこっち来てさ。そんでまた向こうにちょっと戻るわけ。俺ん家広いから、お兄さん泊まりなよ」
「まじでえ?」
「マジマジ。なんなら車出すし、一緒に遊ぼうよ」
「まじで? たすかるー、僕ほんとなんも考えてなくって。もうずっと海眺めてよっかなって思ってた」
「ええ、なにそれ! どうせなら海入ろうよ」
「だって僕泳げないもん」
「じゃあ俺が教えてあげるし。ね、決まり」
 わあ、なんか楽しいゴールデンウィークになりそう。なんて思っていると、出発のアナウンスが流れる。
「あ、僕窓際だから先行くね」
「席どこ? わ、隣じゃん。すげー奇跡」
「嘘?! うそ、すごーい! 運命だね」
「そだねー、じゃあ一緒に行こうか」
 こんな奇跡ってあるんだ。なんだか幸先良すぎかも。
 僕はるんるん気分で飛行機に乗り込んだ。

「俺、与儀晴人(ヨギハルト)って言うんだ。お兄さん名前は?」
「僕は浅葉佑都(アサバユウト)」
「そう。よろしく、佑都」
「おお……よろしく、晴人」
 名前呼びなんて学生以来だったから、感動してしまった。
 それからも二人でおしゃべりは続く。修学旅行の続きみたいで楽しかった。でも今回は大人の修学旅行だから、僕はビールを二本飲んだ。
 眠気に襲われて眠って、どれくらい経ったのか、不意に目がさめる。
「ん……」
 酔いは覚めたが、ブルっと震える。飲んだ分だけ出したいわけで、僕はトイレに行きたくなった。
「あ……」
 晴人、と呼ぼうとしてたじろぐ。僕はどれだけ酔っていたのか。全く見ず知らずだと言うのに、すごく親しくなってしまった。歳だって10歳近く離れているだろうに。
 お酒って怖い。まあ、すごく頼もしい旅の仲間が出来てくれたのはありがたい事だけれど。
「晴人、ちょっとごめん」
 眠っている晴人を揺さぶって起こそうとするが、晴人は寝入って目覚めない。
 あと少しで空港と言うのなら我慢しないでもないが、どうもあと一時間はかかるらしい。それに、ビールのお陰で尿意はどんどん強まる。仮に間も無く着陸だったとしても、衝撃で漏らしそうなくらいだ。
「晴人、晴人」
 晴人の足を跨いで行くのも考えたが、狭すぎて跨ごうとすればそれもまた大変な危機となる。
 一向に目覚めてくれない晴人に、僕は半泣きで晴人を呼んだ。
「ん、なに、ゆーと」
 寝ぼけ眼の晴人がようやく目を覚ます。欠伸しながら僕の肩を抱いて、頬擦りしながら聞いてくる。
 ああ、やめて、そんな刺激ですら今は大変に危険なのだから。
「トイレ、トイレ行きたいからどいて」
「えー、まじで?」
「まじまじまじまじ」
「まって、いてて、なんか足痺れて動けない。ちょっと跨いで行ってくれる?」
「そんな……」
 希望が絶望に変わる。でも、それならもう背に腹はかえられない。僕は仕方なく、晴人の方を向いて足を跨いだ。瞬間。
「うっそ〜〜」
「うえ、」
 腰を抱かれ、僕は晴人の足の上に向かい合って座った。
「あ……」
 その衝撃に、じょろっ、それは始まった。
「あ、あ」
「わ、まじで? やっば」
 やばい、と言う割に楽しそうな顔をする晴人がその訳を僕に耳打ちした。
「めっちゃ興奮する」
 舌を耳に入れられ、僕はびくりと跳ねた。もう、身体の抑えは効かない。
 晴人は僕の背中を抱いて身をかがめさせ、腰に僕の使っていたブランケットを巻きつけた。さらにチャックが下され、股間を包むようにタオルを押し当てて、出た水分は全てそこに吸収された。
 出て行くおしっこに比例するように、ぼろぼろと涙も落ちて行く。どうしようもなくみっともないのに、その一方で溜まりに溜まったおしっこが出て行くのが、どうしようもなく気持ち良かった。
「すげえいい顔してる」
 耳元で囁く晴人の声に、ゾクッとした。
 僕のバカンスの行方は、一体どうなるの……?

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