抱えたキセキ




「負けたよ」


まだ朝の早い時間。街が見渡せる程の高台で。

彼からのその報告に、私は目を丸くして隣の彼を見上げた。


「……驚く?」


彼の短い問いに私は短く「え、うん」とだけ答えた。

有り得ない……と思った訳ではない。
ただ、びっくりした。


全国大会の準決勝。
沢山の強者が集まるそこに、彼はいた。
いつもの笑顔で、そこにいた。

だから、負けるなんてこれっぽっちも予想していなかったのだ。


「……そっかあ」


「………………」


「……やっぱり、最後まで見ていけば良かったかなあ」


若干寂しげな声で、私は言う。
その日私は用事があって、ちょっと覗いてすぐ帰ってしまったから。
見られなかったことを、ちょっぴり後悔したのだけど。


「それは、困るね」


「ん?どうして?」


意外な彼の反応に首を傾げると、不二君は情けないような微笑みを浮かべて答えた。


「だって……格好つかないじゃない」


彼の口から出たその理由はいかにも単純で、なのにいかにも彼らしかった。


「……別に、格好つけなくたっていいのに」


「好きな女の子の前では、格好いいボクでいたいんだよ」


思わず口元が緩んでしまいそうになるその甘い台詞に、私は一度ぐっと唇を結んでからハアっと息を吐いた。


「…………格好つけなくても格好いいから、いいの」


わざと不機嫌そうな顔をして言えば「そう」とだけ返してクスリと笑う彼。
……何か言いたそうにしているんだがそれはひとまず置いといて。
とにかく、私が言いたいことだけは言ってしまおう。


「決勝戦進出、おめでと」


「うん、ありがとう」


「応援してる。から」


「……うん、ありがとう。決勝戦は、絶対に」


静かに、ぐっと。右手を握られる。
それだけで伝わる彼の……彼らの想い。


青学が全国一という輝きを手に入れるその瞬間を。
みんなが抱えたキセキを。

願いながら、私たちは朝焼けの街を見つめ続けた。



end



企画提出作品→Luv Fesさま




戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -