私、山川紅葉は、ちょっぴりチキンな中学3年生。
只今、物陰からクラスメートのあの人を覗き中です。




1st





私の視線の先にいる彼は、4組前の廊下でお友達と談笑している。
お友達がいる前だと恥ずかしくって出ていけそうにない私は、会話が終わって彼が教室に戻ろうとするのをじっと待っていた。


……えー、こんな始まり方だとなんか勘違いされそうだが、現在私が凝視している彼は別に、私の好きな人とかっていうんじゃない。
彼はただのクラスメートの不二君であって、それ以上でもそれ以下でもない。

ないのだが……じゃあ何故いま私はこんな怪しい行動をとっているのか。
それについては少々説明しにくい……っていうか説明したくないのだけれど、とりあえず、掻い摘んでみるとこういうことである。


先程、友達みんなでポーカー対戦をした。
私は、運が悪いのかそれとも下手なのか、ことごとくワンペアで見事に惨敗し、罰ゲームをやる羽目になった。
罰ゲームの内容は「○○に××をする」といったカンジ。

はあ……全くもう、なんでそれで「不二君のほっぺをつねってくる」になるんだ、酷いやみんな。


……とまあ、そんなこんなでようやくチャンスが到来したので、私は彼のところへと歩き始めたのだった。



………………



「ふ……不二君!」


彼に近づいて、後ろから声をかける私。
うう……いくらクラスメートって言っても、普段あんまり話さない人に話しかけるのって、結構緊張するなあ……。


「ん、山川さん?何?」


振り返った不二君は、ファンが大勢いるのも頷ける笑顔を浮かべた。

……さて、どうしようか。

いきなりほっぺつねっていいですか、なんて訊けるワケないし……ていうか、もしそれで了承したらマゾっぽいじゃん?……いやいや、不二君に限ってそれはナイだろうけど。

……仕方ない!
無断でいこう!


「不二君……ゴメン!」


「え?」


私は、謝罪と同時に両手を、半分だけ口を開いてキョトンとしている彼の頬まで伸ばす。
そして、むにっと、軽ーくつねった。
周囲の視線が、私と不二君に集まった。


「……え?」


…………やった!
ていうかやっちゃった!

つねっていたのも数秒、パッと手を離し、目を開いたまま動かない彼に向かって上半身を90度以上曲げるという最敬礼なんて目じゃない礼を素早く行い、


「……ごめんなさい!」


「え?え、あの山川さ……」


「ごめんなさーい!」


何やってんだコイツという周りの視線と、不二君の訳が分かっていないクエスチョンマークだらけな顔に、あまりにいたたまれなくなった私は謝りながら逃走した。
……ああ、明日からどんな顔して不二君に会えばいいんだよう。

こんな変な罰ゲームを設定した我が友たちに心の中で文句を浴びせつつ、次のゲームは絶対勝つぞと心に決めたのだった。



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