エスプレッソが駄目なら、カフェラッテにすればいいじゃない。

そんな、フランスのなんとかネットさんを彷彿させるようなことをのたまったお母さん。
それもそうかと、私はカフェラッテに挑戦してみた。



出会いのミルク




カフェラッテは、エスプレッソに牛乳を加えれば出来るとかいう話だ。

が、しかし。


「うーん、うーん」


スーパーの牛乳コーナーで、私は様々な牛乳を手に取っては戻しを繰り返していた。

……カフェラッテを作るのに、どんな牛乳を買えばいいのかよく分からない。
低脂肪乳がイマイチなのは経験済みなのだが。


「カルシウム多めのがいいのかなあ……」


「何が?」


「んー、カフェラッテに入れる牛乳…………んん?」


……なんかいきなり、にもかかわらずナチュラルに会話が始まったものだから、一瞬スルーしかけた。


「へえ、佐藤さんカフェラッテ飲むんだ?」


声のする方を見れば、そこには私の……クラスメートの不二周助君が、学校にいる時とさほど変わらない笑顔を浮かべて立っていた。

な。
……んで、不二君が、ここ(スーパー)に?

私が人知れず驚愕していると、


「あれ?でも佐藤さんって確か、コーヒー苦手じゃなかった?」


頭の上にクエスチョンマークを浮かべたような顔で、不二君は言った。
……え、ちょっと、なんでそのことを……?


「前の調理実習の時にホラ、コーヒー無理コーヒー無理って連呼してたじゃない?」


「…………ああ、」


そうか……それか。
うん、確かにあの時言った。
クッキー焼き終えてみんなで食べる時に、飲み物がコーヒーしかなくて、そんなことを。


「苦いの苦手なんだ?」


「う、うん……」


「クス……まあね、カフェラッテならミルクの方が多いし、飲みやすいよね」


「うん……え、牛乳多いの?」


不二君と会話が続いていることに内心感動を抱きつつも、少々気になる点があったため訊いてみた。


「うん、カフェラッテの場合、エスプレッソとミルクの比が2:8くらいかな?お好みでもいいけどね」


「えっ……そうなの?」


それは知らなかった。
だからお母さん、「もっと牛乳入れたら?」って言ってたのか……知ってたんなら教えて欲しかった。


「そうなんだ……私、1:1で入れてた……」


「1:1はどちらかと言うとカフェオレ、かな」


「え?カフェオレとカフェラッテって、どっちもおんなじじゃないの?」


「うーん、まあ確かに和訳するとどっちも“コーヒー牛乳”なんだけどね。違いを簡単に説明すると、カフェオレはフランス産で、カフェラッテはイタリア産。細かく言えば、もっと違うよ。例えばカフェオレに使われるコーヒーは普通のコーヒーだけど、カフェラッテはエスプレッソから作るんだ。エスプレッソは普通のコーヒーより味が濃いからね、だからミルクを多めにするんだよ」


「へ、へー……」


……何か、すごいなあ、と心の中で感嘆。彼が、である。
彼のことはテニスがうまくて頭がいいくらいしか知らなかったが、こんなことまで知っているとは。


「不二君って……物知りだね」


「クスッ、毎日モーニングコーヒー飲んでるからかな。少しは詳しいかも」


少しときたか。凄い謙遜をするお人だ。

それにしても……毎日モーニングコーヒー?優雅にも程がないか、不二君ちの朝。

私もやってみようかなあ。
カフェラッテだけど。


「あ、そうだ。牛乳だけど、こっちの方がいいんじゃないかな。それ、乳飲料だから」


そう言って私の持っていたものとは別の牛乳を手に取る不二君だが……え、乳飲料?
乳飲料って、コーヒー牛乳とかフルーツ牛乳のことじゃあ?


「乳製品以外のものを加えた牛乳はね、全部乳飲料なんだよ。コレも、ホラ、ここに」


私が疑問を口にする前に、私が持っている牛乳の名称部分を指差して言う不二君。そこに“乳飲料”と書いてあるのに、今の今まで気づかなかった。
カルシウム多めとか書いていても、牛乳は牛乳だと思い込んでいた。ああ、なんて恥ずかしい。


「牛乳って書いてあるのは、要するに何も入ってないってこと。だから、他のものより自然な味わいなんだ。あと、少し値が張るけど、低温殺菌のものもおすすめ。高温殺菌より美味しいよ」


「……やっぱり、不二君って物知りだね」


苦笑しつつ、そう呟いた。


……ところで、不二君との出会いと知識の豊富さに気を取られて訊けなかったが、彼は一体何を買いに来たのだろう。

無調整低温殺菌牛乳を買い物かごに入れながら、そんなことを思った。



12.06.23 加筆修正


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