一年の頃から、密かに想いを寄せていた男の子がいた。

けれど、彼が沢山の女の子に好かれていたせいか、私は自然とその想いを胸の奥に引っ込めたままでいた。
中学最後の学年、同じクラスに配属された時も。


そんな私と彼が繋がりを持った根本的きっかけは、最近ほぼ毎日稼動しているエスプレッソマシンだ。


ある休日、お母さんに頼まれたおつかい。
買い物時に貰った福引き券を手に商店街の福引きコーナーへ行き、そこで当たったエスプレッソマシン。
ガラガラと音をたてながらハンドルを回した数秒後、ポトンと落ちた赤い玉とカランカランと鳴り響いた甲高いベルの音が、今でも鮮明に思い出せる。

福引きの何等賞とかいうものを今まで見たことがなくて、荷物が増えたことも忘れるくらい浮かれ、ついつい結構高いコーヒー豆を買ってしまったのもいい思い出……だということにしておこう。


だって、この時エスプレッソマシンが当たっていなければ。

私はずっと、不二君と会話出来なかったのだから……。




はじまりはエスプレッソ




……とまあ、そんな訳で家に帰ってから早速淹れてみた。
淹れてみたはいいが、台所中にコーヒーの香りが充満してきた頃になって、私は重大な事実に気がついた。


「……しまった、私コーヒー飲めないんだった」


そう。私は昔っから、苦いものが大の苦手なのだ。
浮かれ過ぎて、すっかり忘れていた。

なんで今頃思い出すかなあ……とがっくり項垂れてみてもエスプレッソマシンは止まらないし、ましてやコーヒー豆が買った時の状態に戻る訳でもない。

とにかく、淹れた分は飲まないと勿体無いので、私と違ってコーヒー大好きなお母さんに殆ど押しつけつつ、苦手なコーヒーをカップ半分くらい、飲み干した。

これ、苦くなければ美味しい気がするのに……と、お子様味覚ながらに思った。




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