一面のオレンジ色の中で、揺るがぬ黒はよく映えていた。いっそ強烈なまでの存在感。だというのに、こんなにも、

「…へェ、本当だったんだ」

見下す彼の表情は常と何ら変わりはない。その黒い眼に映る自分自身の顔が酷く滑稽に見えて、思わず押さえ付けた右手に力を込めた。自分だけが、自分だけがこんな思いをしているというのだろうか。

「沖田君が、ここに来れば面白いモン見れるって言うからさァ」

それで来てみたら、副長サンてばこんな大層な包帯してんだもん。なァ?
些か咎めるような口調になってしまっただろうか。それでも男の表情が歪むことは愚か、変化することさえなかった。

(まァ本人が何も言わねェもんで、よくは知らねェんですが、夜中に不意討ちでバッサリいかれたそうで)

一人で出て行ったあげく斬られて帰って来やがって、俺には自業自得としか言い様がねェんですが、近藤さんが煩くて。
どこまでも天の邪鬼な少年は薄笑いを浮かべながら話していたが、内心はそんなものでは無かったのだろう。笑いに行ってやってくだせェよ、と自分に向かって言い放った沖田の眼はどこまでも冷ややかだった。

そして今、銀時は此処にいる。
病院の屋上で夕空に向かって紫煙を燻らせる姿に声をかければ、男は一瞬は驚いた表情を見せたものの、すぐに顔を歪ませると一言、帰れ、と言い放った。
それを無視して抜き取ったスカーフの下に覗く包帯はどうやら腹にまで走っているらしく、ご丁寧に留められたシャツのボタンを力任せに抉じ開ければ生々しい白と、僅かに滲む赤が目に飛び込んできたのだ。離せ、と抵抗する男の手首をフェンスに押し付ける。近付いた距離に、男の顔が一層、歪んだ。

「自分だけ犠牲になるような真似してさァ、それで、お前は、満足なの」

そりゃあエゴだ。お前の。
言ってやりたいのに、役目を果たす事を放棄した唇は真一文字に引き結ばれた。まんじりともしない時間だけがただ過ぎていく。閉じきった口は湿度を増し、粘ついた咥内が不快だった。それすらも苛立ちを加速させる原因となる。自分の苛立ちがお門違いだなんていうことは嫌と言うほど知っているというのに、止まらない。

「お前はさ…、」

お前は。
何なのだろう。
今すぐやめるべきだと警報を鳴らす理性とは裏腹に、再び滑り出した唇は言葉を紡ぐことを止めないし、何も言わず黙って此方を睨んで来る男に、やはり募っていく苛立ちは止まることを知らない。衝動に任せて滲む赤に爪をたてれば、僅かではあるが男の表情が歪んだ。それを見て、ほうら、と言ってやりたくなる。感じないわけがないのだ。痛みも、悲しみも。なのにそれを、誰にも伝えようとしないから。その黒で全て覆い尽くしてしまうから。

ぐ、と今一度踏みしめた足は硬いコンクリートの上を滑った。地に足が付いていないような錯覚さえ覚えて、冷や汗が背を伝った。ぐらぐら、揺れている、

「…何とか言えば、」

お前も俺に言わせたいわけじゃないだろう。互いに譲れないものがあるのも分かっている。だけどもお前のそれは、

それは。

(違ェだろ、)

俺に頼れとは言わない。そんなのはお前じゃない。その役目は俺じゃない。お前には頼るべき人がいる、はずだろう!

「テメェには関係ねェよ」

なのに、歪んだ顔でそう、吐き出すから。認めることを、寄り掛かることを、どうしたって拒むから。

「…あっ、そう」

だから、見て見ぬふりを続けるしかないのだ。それが彼にとっての優しさだとでも言うのならば。

「…気が済んだなら、帰れよ」

笑いに来たんだろ?
どこまでも辻褄合わせを続けようとする男に対して、銀時は本日初めて歪んだ笑みを浮かべてそうだな、と呟いた。

一面のオレンジ色の中で、揺るがぬ黒はよく映えていた。目を射抜く、いっそ強烈なまでの存在感。だというのに、こんなにも。

消えてしまいそうなのは、何故。







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