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時には可愛く

「クロコダイルー…?」

「……」



「クロコダイルさーん…?」

「……」


「クロコダイル氏ー…?」

「……」



困った。完全に無視されている。もうこんなのがかれこれ一週間以上続いている。これはきっと本当に怒ってるんだと思う。
いつもだったら少しぐらい怒らせても「うるせーな」とか何かしら反応してくれるもん。今回は完全にシカトされている。恐らくは、私がクロコダイルに言ったなにげない一言が問題だったんだ。








「最近帰り遅いけどなにしてんのー?」

「あァ?なにもしてねーよ」

「ふーん?」

「なんだよ」

「べつにー。なにもないとか言ってほんとはやましいことしてんじゃないのー?」

「あァ…?」











たしかこんな感じの会話をしたと思う。だってそれ以来口きいてくれないし…。私としてはなにげなく言ったつもりだったんだけど…。
実際、最近クロコダイルの帰りが遅い。なにもないとは思っているけど、心配だし不安になるし気になるし…。でも素直に「なんで?」って聞けないから。つい可愛くない言い方しか出来なくて。普通の女の子ならもっと違った言い方か出来るんだろうなァ…。




「クロコダイル…」

「……」

「あの、」



さすがに今回は私が悪いと思う。だから謝ろうと思って、高価な椅子に座るクロコダイルに話しかけてみたんだけど、クロコダイルは無言で立ち上がってしまった。
なんだこれ。なんかさらに悪化してるような…?ずっと無視だけだったのが、ついに避けられ始めてしまった。これは……つらい。




「クロコダイル…」

「……」

「クロコダイル…!」

「…なんだよ」

「…あの、」



言うんだ。言わなきゃ。ごめんなさいって。今回はどう考えても私が悪いんだから。疑ってひどいこと言って嫌な思いさせた。なのに…




「…その、」




言葉が出ないなんて。言いたいこともたくさんあるし、なにより今のままの状態なんて絶対いやだ。それなのに私の口は私の意に反して言葉を紡いでくれない。せっかく、クロコダイルが口きいてくれたのに…!




「…あ、」

「…なんだよ。なにも言うことがねェんならおれはもう行くが?」

「…え、と」

「……」

「……」

「……はァ」



どうしよう…!ため息つかれちゃってる…。早く言わなきゃクロコダイルが行っちゃうのに…。





「これ以上は時間の無駄だ」

「……え、」

「じゃあな」

「クロ…!」




音にならない叫び声。でもそれは声に出さなきゃ伝わらない。きっと、クロコダイルは私の言いたいことに気付いてる。でもいつものように先を促すことも、助けてくれることもなくて。それでも、待っていてくれているのはきっと…。





「クロコダイル…」

「…なんだ」

「…ご、めんなさい…!私、あんな言い方するつもりなかったのに…、でも、最近クロコダイル構…ってくれないし…っ、わたし…ふ、あんになって…っ!」




ちゃんとクロコダイルに伝えたい。心から申し訳ないと思っていることを。なのに私の目からは透明な雫が流れ落ちて、目の前の彼が滲んでいく。だめ、クロコダイルを見失いたくないのに…。
伝えたいことが胸から溢れて、呼吸が乱れていく。お願い、最後まで言わせて。




「クロコダイルのことは…っ、しんじてるけど、でも…わた、し…」




それまで黙って聞いていたクロコダイルが私の方に向きなおしたかと思ったら、コツコツと近づいてきた。




「ごめんなさい…酷い言い方して…」

「…aaa」



そんな優しい声で呼ばないで。私が悪いのに…。久々に聞く声に、優しい声色にまたボロボロと涙が出てきてしまった。
意味はないとわかっていても俯かずにはいられなくて下を向く。すると、ふわりと温かくも大きな手が私の頭の上に乗ったのがわかった。



「ったく…、なにをそんなに不安になる必要がある」

「クロコダイル…」

「お前以外の女に興味はねェことは知っているハズだぜ?」

「…でも、」

「大事な国取りの前だ。当然帰りも遅くなる」

「…うん」




わかってる、わかってるけど。




「傍にいたいんだもん…。少しでも長く、」

「それは…、おれだって同じだ」

「…え?」

「たしかに帰りは遅いがまっすぐ帰ってきてる。お前のとこにな」

「…本当?」

「うそに聞こえるか?おれは国の英雄だぜ?」

「…どうせなら私だけの英雄になってくれたらいいのに」

「クハハ!今にそうなる。この大仕事が終わればな」



この仕事が終わってクロコダイルが私だけの英雄になってくれるなら、一刻も早く終わってほしい。何事もなく、無事に。
でも、これは仲直りできたのかな?ちゃんと伝わったのかな?

私が一人で別の不安を感じていると、突然クロコダイルがクハハと笑いだした。




「なに…?」

「いや、」

「言いたいことあるなら言ってよ…」

「そう不安がるな。珍しいことを聞いたと思っただけだ」

「…!」




クロコダイルの言う「珍しいこと」とは私がさっきクロコダイルに言ったことだろう。その時は必死すぎてつい思った事を言ってしまったけど、よくよく考えてみればすごく恥ずかしいことを言ってしまったのではないだろうか。
今更になって顔が赤くなっていく。



「や、あれは…!」

「なんだ、嘘だったのか?」「ち、ちがう…っ、嘘、じゃない」

「ということはお前の本心ということでいいのか?」

「う、うん…」

「クハハ、なるほどな」




なんだか今日はクロコダイルよく笑うなー…。でも久しぶりに彼の笑った顔が見れて私も嬉しくなってきた。
でもいったい何がなるほどなんだ?




「なんで笑うの…?」

「クク…、いつもそれだけ素直ならな」

「え…!い、いや!これからは私だって素直になるもん!可愛くなるもん!」

「ほう…」

「ナニカ問題デモ?」

「いいや、期待しといてやる」



時には可愛く




 
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