うちの人がねぼすけで困ってます

(現パロ)




「おーい、そろそろ時間だよー」
「んー…まだ夜だ」
「残念ながら朝の8時です」


うーんと唸るだけでなかなか布団から顔を出さないエースは付き合っていた頃も、こうして結婚してからも相変わらずねぼすけで困ったものである。
結婚した今は同じ家で暮らしているし相手の状況も把握できるけど、付き合っていた頃はおいそれと相手の家に行くこともできず、かといって寝ているから連絡を入れても返事はなく完全に待ちぼうけ状態だった。それから待ちに待って待ち合わせから2時間後、申し訳なさそうにやって来るエースはもはや見慣れた光景でもあったし、それを許す私もまたいつものことで。
特に期待をしていたわけでもなかったがねぼすけは結婚してからも相変わらずであった。
しかし待ち合わせに困ることはなくなり、今となっては寒空の下で震えることもないわけだが、かわりに起こすのにはほとほと苦労している。ねぼすけでありながら寝起きがいいのが唯一の救いか。


「ほら、今日一緒に映画見に行く約束してるんだからそろそろ起きて」
「…お、そうだな」


一応返事はするのに眠っているこの現象は私にとって永遠の謎と言えるかもしれない。

そうだな、と言いつつ結局エースがベッドから飛び起きたのは8時だと起こしてから3時間半後のことである。今回はいつもより長かったな、なんて考える余裕はあるものの、もちろん予約していた映画はすでに終わっていた。

映画は終わってしまったしそろそろお昼だし、今日の予定はどうなるのだろうか。映画は別に夜も放映されるのだからそれはいいのだけど、それにしても横で正座をしながら必死に手を合わせて謝るこの男をどうしてくれよう。
いまだに髪は寝癖だらけだしこちらを見てくる目元も腫れぼったい。寝付きはいいし夜ふかししているわけでもないのによく眠れるものだ。なんて、呆れもなくただただ感心するばかり。
だがここで仕方ないね、と許してはいけない気もするのだ。怒ってはいなくても怒ったふりをして反省させなければ彼のためにならない。エースも社会人ならば時間はしっかり守らねばならないとだと根気強く教えていかなければ。

と、こんなことをかれこれ1年続けている。
彼の家は放任というよりはそもそもおじいさんが不在がちで弟も好きなように生活していたため、つまり習慣を習慣のまま誰に正されるでもなくやってきてしまったというわけだ。
結婚した以上、管理をする立場の人間がいるなら直していかないとと始めてなかなか成果が出ずにいる。
私のやり方が悪いのか彼が頑固なのか。改めて習慣というものはなかなか変わらないものだと、変えるのは難儀なものだと思い知らされられる日々だ。
私との約束はともかく仕事上での責任は大丈夫なのかと他人事ながら心配になってしまう。とはいえ、起きているときは時間にルーズということもなく、礼儀正しいところもあるのだが。


「ほんとわりぃ!折角起こしてくれたのに寝坊しちまって」
「…ほんとだよ。私明日から仕事忙しくてしばらく出かけられないんだよ」
「ほんとごめん!」


パンッと両手を顔の前で揃えて謝るエースの顔は真剣で本気で反省していることが窺える。それが活かされた試しがないというだけで気持ち自体はいつでも本当なのだ。だからこそ見捨てることもできなければいつも最後は許してしまうのだけど。

べつに怒ってははいない。それは本当だ。けれどこれから仕事が忙しくなりなかなか出かけられなくなるというのも本当のことだ。
私が勤める会社は女性でも転勤や出張がある会社で、この連休が終われば出張で遠出することになっている。きっと2週間は帰ってこられないし、帰ってきてからもまたしばらく忙しい。だから今日を大切にしたかったのだけど。

…もう11時半。

ぴょこぴょこと跳ねた寝癖の奥にある時計を確認すればもうすぐ午前が終わろうとしている。
これは映画のことよりもお昼を先に考えなければならないだろう。先にも言ったが映画は夜にも放映しているのでそこまで急ぐ必要はなく、ならば今はおいしいご飯を食べられたらそれでいい。
早く寝癖を直して来てと伝えると、なんだかんだで察しのいいエースは陸上選手並にキレのあるダッシュで洗面所へと向かっていった。その速さったらない。そんなに慌てるくらいなら最初から起きたらいいのに、と思わず笑ってしまう。

彼のねぼすけが治らない理由の一つとして、習慣を正したいと願う私の根本的な甘さもまた大きく関係しているのかもしれない。
それでもためにならないと知りつつもこうしたままならない日常も残念ながら楽しいのだ。

苦笑いに混じって出たため息は、余程慌てているのか洗面所から聞こえるガシャンという大きな物音に吸い込まれていった。


「慌てなくていいから物壊さないでね」
「いや待て、もう寝癖直るから!」


きっと彼が立ち去ったあとの洗面所はひどいことになっているだろう。そしてそれを二人で片付けるに違いない。
ねぼすけで、その日の予定もふいになりがちな彼との生活はなかなかに大変ではあるものの、二人で反省をして、二人で後片付けをして。困ったと顔を見合わせながら眉を下げる、こんな生活も今はただ楽しいものだ。


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