お客さんマルコ


いつも同じ時間、夜の8時にそのお客様はやってくる。片手には甘味、もう片方にはお酒。どんな甘味なのかは日によって違うがこの二つは欠かさない。そこにたまにおつまみだったりお魚やお肉だったりを少し買うだけ。

そしてほら、今日も。


「いらっしゃいませ」
「これとこれを…レジ袋はいらねェよい」
「かしこまりました」


今日はイチゴのショートケーキにとろけるプリン、それからビールを数本。お酒はともかくいつも買っていくケーキやプリンはご自身で召し上がるのだろうか。ちなみに彼の買ったとろけるプリン、ずっと食べたいと思っているのだけどいまだに食べられず。
まあそれはいい。しかし今日は少しいつもと違う。いつも甘味は1つしか買っていかないのに今日は2つだ。
私はずっとこの人は独身だと思っていた。そして彼女なし。だってこんな時間にこんな買い物して。平日も休日も来るのだから偏見かもしれないけどいよいよそう思った。でも今日は甘いものを2つ買っている。誰かへのお土産か、それとも2つも食べるのか。まあ甘味を2つ買っただけで誰かへあげるだなんて考えるのはちょっと浅はかだったかも。


「89円のお返しになります」
「ああ、どうも」
「ありがとうございました」


そして商品を詰める台へと移動した彼はポケットからエコバッグを取り出した。眠そうなアヒルがプリントされたそれは持ち主にどことなく似ている。
もう店内にそんなにお客様もいないし、失礼と思いながらも眺めているとふと彼がこちらに歩み寄ってきた。


「おつり、1円多かったよい」
「あ、これは失礼いたしました」
「それはいいんだけどよい……これを」
「はい?と、とろけるプリン?」


おつりと共に渡されたおいしそうなプリンに戸惑ってしまう。返品ということなのか?


「ご返品でしょうか」
「いや、アンタに」
「…どういうことでしょうか」
「いつもお疲れさん」


やや強引に渡されたまだ冷たいとろけるプリン。ろくに礼も言えぬままその常連さんは帰ってしまった。たしかに食べたいとは思っていたけど…これっていいのだろうか。常連さんだけど…知らない人だけど…悪い人じゃなさそうだけど…。


「まあいいか」



とにかくこのままここで持っているわけにはいかないので一旦休憩室の冷蔵庫に入れておこうかな。明日もきっと同じ時間に来るはずだからその時きちんとお礼を言おう。





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