猫っぽい主人公1

「こっちだ」
「おれは今忙しいんだよい」


穏やかな航海をしていたが今日の朝、無人島らしき島についた。ここでしばらくのんびりするらしいがおれにはそんなこと関係ない。どうせ船のやつらは新しい島に夢中でいなくなるし静かなほうが仕事もしやすい。いい機会とばかりに部屋で仕事にいそしんでいたわけだがそんな中サッチに邪魔されて今に至る。

あともう少しで一段落ついたのに、と内心舌打ちして見せるが隣の馬鹿には通じない。まったく気乗りしないおれの腕を掴んでひたすら船内を歩く。


「どこに行くんだい。外じゃねェのか?」
「今は倉庫にいるんだよ」
「いる?」


いる、ということは生き物なのか?なんだか嫌な予感がする。コイツらが喜ぶものといえば物珍しいものばかりなのだ。こんな海賊の船で生き物なんか飼えるわけねェってのに、うっかり見ちまって情でもわいたらどうするつもりなのかね。


「ここだよ、ここ!」
「はいはい」


たどり着いたのは普段使わねェ倉庫だった。こんな中に閉じ込めてあるのか。埃まみれだろうに、気の毒だな。男所帯だから片付けも行き届かねェ部分もあるだろうが、やっぱり掃除はこまめにするべきだな。

早く扉を開けろと言わんばかりにおれの背を押してくるサッチに若干のイラつきを覚えながらドアノブを回した。


「いったい何がいるってんだい…」
「どうもこんにちは!そうです私が」


部屋の隅っこにいる生き物を眼球が捉えた瞬間ドアを閉めた。何か話していたような気もするがそんなの知らない。いや、まさかそんなはずはない。あれはおれの見間違いだ。


「どうだよ」
「なんだいあれは」
「まあもう一回見てみろって」


正直もう見たくはないがしかたない。再びドアを開ければそのおかしな生き物はいた。


「テイク2ですか。どうもこんにちは!そうです私が」
「お前はなんだい」
「あ、はいそれをですね。今説明するところでして」


妙にテンションが高くてフレンドリーな生き物に頭痛を覚えた。世の中ってのはなかなかどうしてこんなおかしな生き物がいるのかね。

頭の上には二つの獣っぽい耳。下半身には尻尾のようなもの。口の隙間からはちょっとだけ鋭く見える牙がある。


「人間?妖怪?」
「どっちかっていうと妖精で」
「おいサッチ、おれは仕事という現実に戻るよい」
「あぁぁっ!ごめんなさい待ってください、ちょっとこっちの現実も見て!」


とりあえずこんな埃っぽい場所は嫌なので外へ出てもらうことにした。日の下で見るとなんかこう…よけい胡散臭い。


「いまどき猫耳とか尻尾とか流行らねェだろい」
「生まれつきですいません」


生まれつきとはなおさら怪しい。おれが訝しげな目で見てる間もこの生き物は自分について話している。あまりにも話すものだから半分聞き流している状態だ。隣のサッチは熱心に聞いてるようだが。



「どうすんだよい」
「どうするってなぁ…。今さら元の場所に戻すわけにもいかねェだろ」
「捨て猫じゃあるまいし」


どうやらこの迷い猫、家族はおらず気ままに旅をしてたところサッチに捕獲されたらしい。自由気質なとこも猫っぽいな。とりあえず何でもかんでも拾ってくるサッチに拳骨を落としておく。なんだか猫も居座る気満々だしどうしたものか。さすがに船に乗せるかどうかはおれたちの一存では決められない。オヤジに聞かなければならないが、戦闘員でなければ乗せてくれるだろう。まずはその許可をもらわなくては。


「おい猫女。ここは海賊船だよい」
「知ってます」
「今すぐ降りて今までどおり生活したほうがいいんじゃないのかい」
「んー…、許可が下りなければそれも考えてみます」
「もう一度言うがここは海賊船だからな」
「やー、このご時世、猫も杓子もみーんな海へ出る時代なんで問題ないです」
「…あんまり頭はよくなさそうだな」


付き合いきれないのでオヤジのところへ行こうと思う。この猫女をさらってきた張本人はもう船に乗せる気らしくガッツポーズをかましている。なんだか頭にきたのでもう一度拳骨を落としておいた。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -