ニヤけるマルコ
ぼんやりと意識が浮上し始め重い瞼を持ち上げればそこにはすでに起床している恋人の姿があった。彼はベッドの淵へと腰かけ、なにやら携帯電話を見てはニヤニヤしている。
そんな光景にだんだんと頭が冴えわたってきた。
え、なに。なんなの?携帯の画面見てニヤニヤするなんて…まさかいかがわしいものだったりして…?
寝起きの頭とは怖いものだ。ふだんなら友人の楽しそうな写メでも送られてきたのかなとか思うはずなのによりにもよっていかがわしいものだと勘違いしている。しかもまだ朝なのに!超寝起きの頭ほんとおかしい!
しかしそこまで深く考えられるはずもなく私はマルコの背中に飛びついた。
「変態は速やかに処罰します!」
「うわ!なんだよい起きたなら声くらいかけろい」
「変態の言うことなんか聞くもんか!」
「変態!?」
なんの話だ!とあからさまにオロオロするマルコにやっぱりいかがわしいもの観てるんだ!昨日も散々シたのに!とますます勘違いする私。
「あーもういい!起きたなら朝めしにするぞ!」
「話そらさないで!ていうか顔赤いよ?朝からやーらーしーいー」
「なにバカなこと言ってんだい。誰がそんなもの観るか!」
「だってさっきから怪しい!えいっ」
かたくなに画面を死守しようとするマルコにしびれを切らせた私はおもむろに身を乗り出して画面を覗くことにした。ていうか今思えばそんなのみてどうするつもりだったんだろうね!完全にスルーすべきとこだったよね!
「…え?」
「観るなって…!」
ブンッと優しく放り投げられて結局さっきまで寝てたところに逆戻りするハメになってしまったが、一瞬だけチラッと携帯の画面が見えた。そこに写っていたのは一人の女性だった。
「朝っぱらから元気すぎるだろい…まったく」
「あの…マルコ…。今観てたのって…もしかして…」
「なんでもない。なんでもないよい。今日はおれが朝めし作るからお前はそれまでここでおとなしくしとけ。いいな?」
「…はい」
珍しく饒舌で一気にまくし立てた彼は顔どころか耳まで赤くさせて部屋を出ていってしまった。バタンと閉められたドアをぼーっと見ながらさっきのことを思い出す。
「画面に写ってた女の人……私だった…」
一瞬しか見えなかったけどそこに写っていたのはまぎれもなく自分だった。さらに言うといつ撮られたのか身に覚えのない寝顔の写メだった。
それを彼は朝から眺めてはニヤニヤしていたのだ。隣に本物の寝顔があるのに!
そうは言いつつも結局私も照れてしまってきっと顔も真っ赤だろう。
「目…半開きだった…」
写メの中の自分を思い出して若干死にそうになっているがあんな不細工な顔した写メでもニヤニヤするぐらい…写真を撮ってしまうくらい良しと思ってくれているのならめちゃくちゃ恥ずかしいけどまあいいとしようか。
それにしてもこのあとどんな顔してマルコに会おう。きっと彼もまた恥ずかしい思いをしたはずだ。おまけに私は彼を変態と言って罵っている。これは小さな事件だ。
「…よし!寝たふりしよう!」
そして今度は可愛らしい寝顔の写真を撮ってもらおう!