クザンさんでルージュの伝言パロ
ただいまと声をかけてもなんの返事もない。それはまあいい。時間も時間だ。そんな理由なら、の話だが。靴がないのだ。
「あらら、いないのか?」
こんな時間に?その“こんな時間”まで出歩いていたおれがどうこう言うのはおかしな話ではあるが、あのまじめなあゆむがこの時間に家を空けるなど、どれだけ記憶を辿ってみても思いだせない。つまり。つまり…?
「おーい、あゆむ?」
やはり返事がない。寝室、リビング、トイレ。だめだ、いない。リビングの机の上に置かれた箱をスルーして考える。そもそも靴もなければ人の気配すらないのだが、とにかく自分の目で確かめてみなければ気が済まなかった。どこか嫌な予感が胸中を占めるがどうか気のせいであってほしい。
そして最後となったバスルーム。ここにいなければやはりこの家にはいない。答えはもうわかりきっているようなものだがそれでもドアを開けた。
「まったく…どこへ行ったっていうのかね」
連絡もない。なんの手がかりもない。そして理由もわからない。ただ遊びに行っただけなのかなんなのか。手を頭にもっていき深いため息をついたところでバスルームの鏡に目がいった。
前言撤回しよう。連絡がないなんて嘘だ。
「これはまた…派手に書いてくれたな」
ルージュなんて可愛いもんじゃない。この鏡は買い替えなければならないだろう。赤いペンキではみ出さんばかりに書きなぐられたメッセージ。
「噛みしめろ、か…」
ちなみになにで割ったのか鏡には蜘蛛の巣のようにひびが入っていた。これは相当お怒りらしい。そして再び前言撤回。理由がわからないなんて嘘だ。鏡と赤いペンキに込められたメッセージをみて直感した。
――――――――――
連載にしようとして没にしたもの。