マルコと傘 ※現パロ


まいった。こんなことなら昨日あゆむが「もう寝たら?」と声をかけてくれた時に素直に布団に入っておけばよかった。寝坊したら困るからと優しく諫めてくれたのに大丈夫だと遅くまで酒を呷っていたのはおれだ。

おかげで今の時間は7時40分を過ぎている。会社までは15分くらいでつくだろうが道中何があるかもわからないのだしこれはよくない。
あゆむが用意してくれた朝食の味もわからぬほど早く腹に入れテレビを見る余裕もなく今はかたい革靴に足を差し込んだところだ。

何事もなく会社につけばいいのだが。そんなことを考えながらドアノブに手をかけたとき肩をトントンと軽く叩かれた。


「なんだい。今は時間がねぇんだ」
「知っています。でも傘をお忘れですよ」
「傘?」


ドタバタしていたせいで見逃した天気予報を、あゆむはしっかり見たらしい。どうやら今日は夕方から雨が降るようだ。
早く会社に行かなければと焦っていたおれにはもちろん知らなかったことである。


「おう、ありがとよい。うっかりびしょ濡れになるところだったなァ」
「たとえマルコさんが水も滴るいい男だったとしても、まだこの時期は雨に打たれると寒いですからね」


さ、いってらっしゃい。

そう微笑みながら手を振るあゆむにもう一度礼を言って今度こそドアノブをひねった。おれの手にはしっかり紺色の傘が握られている。



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