怪力女とマルコ2
「女ってのはお姫様抱っこが好きなんだとさ」
廊下で出くわしてしまったサッチに名を呼ばれスルーしようとした矢先、そんなことを言われた。
ドヤ顔でのたまうその顔にフックアッパーストレートを決めてやりたいところだがなんとかして堪える。正直こちらからすればそれがなんだという話だ。
そもそもおれはオヤジに用があって急いでいるんだ。こんなわけのわからない話に付き合ってられない。
「ああそうかい。じゃあまた明日」
「また明日ってまだ朝の8時だぞ。今日はもう会う気はないってことか!?」
うるさいし適当に流してしまおうかと思った時「マルコはひ弱だから無理な話か」と言われ若干の苛立ちが募る。
なんなんだ。こいつはおれの何を煽りたいんだ?
そろそろやつの顔に強烈なパンチをお見舞いしてやろうか。
「あ、マルコ隊長にサッチ隊長まで」
タイミングがいいのか悪いのか。廊下の向こうからやってきたあゆむにため息がこぼれたがこれは案外チャンスかもしれない。
たしかさっきどこかの馬鹿がおれをひ弱だとかなんとかほざいていたな。
「うわっ」
「で?おれがなんだって?」
わざわざあんなわかりやすい挑発にのるのも癪ではあるがキッチリさせといて損はないだろう。
どうだと言わんばかりにサッチの馬鹿を見れば腕に抱かれたあゆむが抗議の声を上げた。
「なにこれくらいで得意げになってるんですか。これくらい私にもできます」
「は?」
するりと抱いた腕から抜け出せば今度は嫌な浮遊感がおれを襲った。あ、と思う間もない。情けないことにおれはあゆむの細い腕の中にいた。
震えることもなくしっかりおれを抱き上げる腕。女性とは思えぬたくましさ。
「どうです」
「ああ…まあ…強いよい」
「あゆむさん、さすがです」
おれはか細い声で答え、サッチは女を見る目じゃないような視線を送った。
だめだ、あゆむは男らしい。絶対にされるよりする側だ。もちろんお姫様抱っこの話だ。