CP9と隣人3

私は目が悪い。とはいっても極端に悪いわけでもないんだけど、時々めがねをかけるくらいで。視力が悪いことに時折不便に感じることはあっても結局は普通に生活できてしまっているので特に深く考えたことはなかった。

そんな今日。仕事が長引いてしまって周りはもうすっかり真っ暗である。それでもそんなに心細く感じないのは転々と一定の間隔で立つ照明があるからだろう。以前はこの照明も設置されてなくて道は狭いし静かだしで結構怖く感じていた。だけど今ならこのとおり、真っ暗でも一人でも視力が悪くても全然平気である。


「おや?あんなところに白い…猫?犬?」


ここから電信柱2つ先あたりに白く小さい生き物がたたずんでいるではないか。ちなみに私は結構動物が好きだ。少しくらい引っかかれてもかみつかれてもデレデレするくらいには。


「よぉーしよしよし。怖くないよー、大丈夫だよー」


背を低くして手を差し出す。チッチッチッチ、と舌を鳴らして近づけばまったく微動だにしないそれ。え、そんなまさか。もしかしてこれは…。


「ビ、ビニール袋…だと?」


ままま待ってくださいよ…!そんな私、まさかスーパーのあの袋を動物と見間違えるだなんて!こ、これはかなり恥ずかしいぞ。独りスーパーの袋に向かって擬音繰り出すとか完全に不審者のソレだよ。


「い、いやでも誰にも見られなくてよかっ」
「チャパパー。見てしまったァ」
「ハァ!?」


見られた。独りじゃなかった。しかもご近所さんだった。なんだろう、これは…泣ける。


「あああああのですね!これにはワケが」
「隣人のあゆむはスーパーの袋に話しかける変人だったのだー」
「ち、違う!あれはその霊験あらたかな袋で」
「どこからどうみても汚い袋だー、チャパパ」


うん、否定はしない。というか事実だ。360度回転してみても小汚い袋である。なんでこんな間違いをしたのか、考えついた結論はあの時の精神状態が極めておかしかったということ。というかそう考えなきゃこの羞恥心に殺される…!


「フ、フクロウさん!お願いです誰にも言わないでください…!」
「安心しろー。おれは口の堅い男なのだ!」


これで一安心、なのか…?
妙な胸騒ぎを抱えたままその日は眠りについた。



次の日の朝。


「ん…?お前は」
「あ、ルッチさん。おはようございます!」


ゴミ捨てにきたら偶然ルッチさんと会った。あのルッチさんがゴミ捨てだなんて想像できなかったけど、こうして見てみるとやっぱり不自然な感じがして思わず笑ってしまいそうになる。


「今日はいいお天気ですねー」
「…そんなことより」
「はい?」


なんだろう、猛烈に嫌な予感がするぞ。


「昨晩ビニール袋に話しかけて手懐けようとしてたそうだな」
「……え」


ハンッ、と見下したように笑われて昨日の光景が一気にフラッシュバックした。ちょちょちょ…!ルッチさんが知ってるってことは…!知ってるってことは!


「あの、なんでそれを…!」
「フクロウが帰宅直後に話していた」
「あ、そうですか…」
「お前、妙な女だな」
「ハハハ…」


涙が一粒、ほろりと零れたのはどうか許してほしい。



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