CP9と隣人
パリーン。通り過ぎようと思っていた家の窓ガラスが見事に粉砕した。粉々になったガラスの欠片が鼻の先1cmを掠めて飛んでいく。
「ま、またなの?」
つい最近引っ越してきたこの家の人たちはよく騒動を起こす。その内容は今みたいに窓ガラスが割れたりドアが崩壊したり壁に穴が開いたり屋根を突き抜けて人が飛んでいったりとそんな具合だ。時々怒鳴る声も聞こえる。
「我が家の目の前で立ち止まって…何か用か」
「あなたたちが私の行く手を阻んだんでしょうが…」
「知らんな。おれに言いがかりをつけるとは…」
「待った。今のどこに言いがかりらしい部分があったんですか」
この男の名はルッチさん。よく騒動を起こす中の一人。ちなみにちょっとだけいいなぁなんて仄かな恋慕を抱いているが、先のようなやりとりくらいしかしないので叶うかといえば絶望的である。
「おい化け猫!そのふてぶてしさを悔い改める気になったか?」
「…野良犬め」
舌打ちをしてルッチさんが中へ消えていく。そのルッチさんを呼んだのはジャブラさんという人でかなりの強面。騒動を起こす中のひとり。
「あらあゆむ、おはよう」
「あ、おはようございます。今日もはじけてるようで…」
この美しい女性はカリファさん。騒々しい人たちのストッパー的存在。彼女がいなかったら今頃家そのものが吹っ飛んでいたに違いない。でもこの人も怒ると結構見境がなくて怖い。
カリファさんはガラスの欠片を箒で片付けている。割ったのはきっとルッチさんとジャブラさんなのに片付けるのはいつもカリファさんでなんだか気の毒だ。もしかしたら後であの二人はカリファさんに叱られるのかもしれない。
「いつも大変そうですね」
「もう慣れたわ。いつものことだから」
「なんだか大きな子供みたいですよね」
「そうね。いくら叱っても懲りないから困るわ」
「叱る方も苦労されてるようで」
「だからクマドリはいつも頭を抱えてるわよ」
「え?叱るのはカリファさんなんじゃ…」
「いいえ、あの二人を叱るのはクマドリの役目なの」
「…クマドリさん?」
「こういうことがあると切腹して責任取ろうとするのよ」
「切腹!?かなりマジですね!」
「できなくていつも無念って嘆くんだけど」
「そりゃそうだ」
とにかく私の隣人は変わっている。時々本気で引っ越しを考えるけどきっといい人たちなんだろうな。
「嵐脚!」
スパァン、という轟音と嵐のような風とともに私とカリファさんの隙間のアスファルトに亀裂が生じた。
「危なかったわ。食らったら即死だったかも」
いや、うん。本当にいい人はこんなふうに地面引き裂いたりしないはずだ。やっぱり引っ越ししたほうが身のためかもしれない。