マルコ×お姫様3

「…遅くない?」


いつもだったらとっくに来ているはずなのに待てど暮らせどあの海賊は姿を見せない。おかしい。どうしたのだろう。いや、もともと会う約束をしてるわけじゃないし私はこの国の姫であの男はただの海賊で、だからこんなふうに逢瀬を重ねるのもおかしな話で、でもだからって突然なにも言わずに立ち去るとかクール過ぎない?私もう少しあったかいのが好みなんですけど。ちょっとどういうことなの!


「遅い!」
「あ、やっぱり遅かったかい。いやー、見張りしてるやつがうっかり忘れて遊びに出ちまったもんだから」
「うわっ!ちょっ、いきなりすぎるでしょ!」


どうにかして探しに外に出てみようかなんて考えていたらホラー映画のごとくのっそりとバルコニーへ現れた件の男。近づいてみれば頭や肩には葉っぱがついてるしかすり傷のようなものも見える。なんなんだ、けもの道でも通ってきたの?


「こんなに汚れて…。男性は何歳になっても元気なんですねぇ」
「おいおい、そんな綺麗なハンカチもったいねェよい」
「べつに気にしなくていいのよ」


ハンカチとはそもそも汚れるものなのに何をそんなに気にするのだろう。マルコの顔を優しく拭くが乾いた布ではあまりきれいにならない。少し待つように伝えてハンカチを濡らしに行き再びそれを顔に当てた。


「なんだか今日は甲斐甲斐しいな」
「なに言ってるの。こんなに汚れてたらこっちまで汚れちゃうかもしれないでしょ」
「真相は色気のかけらもない」
「悪かったわね!」


なんか嫌味を言われたような気がしたので削れるんじゃないかってくらいの力を込めて拭いてやった。そうすれば無粋な男は嫌そうに体をそらす。ふふん。乙女の心を傷つけた罰です。


「それにしたってどうしてこんな…」
「ああ、いつも通る植木の合間を今日は急いで来たから引っかかっちまった」
「それだけ?」
「それだけ」
「なんだ、自業自得か」
「お前もう少し入りやすいい通路確保しとけよい」
「無茶な!」


海賊自称するのだからてっきり一悶着でもあったのかと心配したというのに、なんだ、急いできただけか。まったく、せっかちな男だ。いやでも待って。急いできたって、いったいどうして。もしかして?もしかして?


「そんなに急ぐほど会いたかったの?」「あ?」
「うふふ」
「…ってことで今日はお開きに」
「ああっ、ごめん!私が悪かった!まだここにいて!」


だめだ。ひと泡吹かせてやろうなんて考えてたのに逆にしてやられてしまった。まあマルコが性悪だなんて今に始まったことではない。最初からだ。ううん、今のほうが悪化している気がする。きっとマルコの主成分は性悪でできているに違いない!残りは怪しさとか。



「い、言っておくけど寂しいわけじゃないからね!ただちょっと退屈だし話がしたかっただけというか…心配だってしてなかったし…」
「は?遠くて聞こえねェよい。もっと大きな声で言えって」
「だ、だから!寂しくもないし心配だってしてなかったんだから!」
「へぇ…そうかい。おれは早くあゆむに会いたくて寂しかったってのに」


そうか、お前は違うんだな。
そう言われてしまってはなんだかかわいそうな気がしてきた。そりゃあちょっとは心配したよ。いつもより来るの遅いって思ったし、まさかなにかあったんじゃって心配もしましたよ。でもひょっこり現れて話を聞いてみれば大したことなくて。なんだか悔しかっただけなんだ。私ばっかり焦ってるって。


「ま、寂しくないんじゃおれがいなくたって変わらねェだろい。もう夜も遅いしそろそろ帰ると」
「うそうそうそ!ほんとは心配もしたし寂しかったの!」
「ああ、知ってる」
「……今なんて?」
「知ってる、って言った」
「こんの…っ!性悪!」
「それも知ってる」


まだ出会って数日だけど、ひとつわかることがある。たとえこの先何回何十回と会ったとしてもきっとマルコの性悪に勝てる日はこない、どこか確信めいたものが心の中に芽吹いた。もしかしたら何回何十回はダメでも何百回目だったら一度くらいは勝てるかもしれない。きっとその時は今よりももうちょっとマルコのことを理解できた時だと思う。だけど私たちにはそんな時間はないから。だから限られたこの時間の中で少しでもマルコのことを知ることができればいいな。


「ねぇ今日もいろんな話をしてよ」
「いろんなって言われてもな…。そう言われるとなかなか思いつかないもんだよい」
「言い訳は聞きません。これだけ心配して待ってたんだから。たくさん聞かせてくれなきゃ!」
「…いきなり素直になるなよい」


どこか戸惑ってるように見えたのに私にはその理由はわからない。だけど、ちょっとした優越感が胸を占めた。まだまだ到底ひと泡吹かせるには至らないけど一歩前進したのです。






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