マルコ×お姫様2

「今日も来ちまったよい」
「どうもこんばんは。本日も変態一歩手前のような露出をして…」
「大きなお世話だ。巷じゃこれくらい普通だよい」
「え!そうなの?みんな腹筋さらしてるの?」
「腹筋どころか胸筋背筋までさらしてるやつが船にいてだな」


これは驚いた。私たちなんか鎧かと思うくらいがっちりと着込んでいるというのに。そうか、世間は服装まで自由なんだ!さすがに胸をさらす度胸はないけど。いや、でも周りがそんな姿ばかりしてるなら私だって腹筋鍛えれば案外いけるかもしれないんじゃない?


「私も腹筋鍛えたい!」
「急にどうした」
「だってそうすれば私だっておなかだしても平気でしょ?」
「いや、仮にも女が……それはそれで問題な気が…」
「そうやって男はいい、女はダメという風潮はよくない。ああ非常によくない!」
「そんな女を世間でははしたないという」
「男がそんな目で見るから悪いのです。女もオープンに攻めていかないと」


なぜ男はいいのに女はすぐにはしたないと言われてしまうのだろう。なにも胸を丸出しにするわけじゃないのに。腹筋を黄金分割したら女の人だってそういう文化が定着するかもしれないじゃないか。



「お前お姫様のくせにぶっ飛んでるな」
「時代の最先端をゆく人はなにかと異端者扱いされるものですよ」
「急に世の真理をついてくるとは」


でも自分のやりたいように過ごせるならたとえ異端の目で見られたって気にしないのに。きっと過去の偉人もそうだったはず。まあなんだかんだ言って私は度胸がないからそんなことできないけどね。こうして海賊とバルコニーで秘密のおしゃべりを楽しむくらいで。



「なぁ、一ついいかい」
「なに?どうしたの?」
「さっきから気になってることがあるんだが」
「え、なに、なんなの?」


先ほどまでのおふざけとは一転、突然真面目な顔して言われたからつい私も背筋を伸ばして聞き入ってしまう。あのいつもふざけた男がこんなに真剣な顔をするなんて、そんなにすごい告白なのだろうか。


「ちょっと、なに…」
「頬にまつ毛が」


まつ毛、だと?


「え、それだけ?」
「それだけってお前…。女はこういう指摘を受けると恥ずかしがるもんだろい」
「まつ毛くらいでなにを遠慮してるんだか。なにもひじきがついてるわけじゃあるまいし」
「それは気づかない時点でいろいろアウト」


ひじきなら重量もあるしべちゃっとしてそうだからすぐに気づくと思うの。でもまつ毛なんてふわふわしたものはわかりづらい。えーと…、どこについてるの?



「とれた?」
「いや?」
「ここ?」
「違う」
「あ、こっち」
「むしろ遠ざかったよい」
「ちょっと!ニヤニヤしてないで教えてよ!」


出ました性悪。人が一生懸命まつ毛の行方を追っているというのになかなか捕らえられないのを見て楽しんでいるではないか。なんという極悪人。これが海賊なのか。人にじわじわと羞恥心を与えていくとは。


「ねえ、どこなの?」
「…ここだよい」


てっきり口で教えてもらえるものだと思ったのに、予想を裏切られて大きな手が近づいてきた。そしてそのままその手は私の左頬を掠めてやがて元の場所に戻っていく。


「とれたよい」
「……ぼ」
「ぼ?」
「ぼええええ!」
「おまっ…!なんて声を…!」


遅れてやってきた羞恥が脳を占領してまともな言葉さえ紡げなくなる。
ゆ、指が触れました…!私の顔に!お父さんにも触られたことないのに!な、なんたる不謹慎!


「こ、こういうのは将来を誓いあったものがたちがすることで…!」
「は?」
「だから!私は恥ずかしいって言ってるの!」
「あ、なんだ。恥ずかしがってるだけかい」
「このスケコマシ!」
「はいはい。なんとでも」


手をひらひらとさせ軽くあしらわれている感じが否めない。なんだろう。この胸の奥から湧いてくる感情は。これはとても……悔しい。あ、そういえば。


「ちょっと待ってて」
「どうした?」
「はいこれ。お花畑に連れてってくれる報酬。前倒しで」
「ああ、どうも」


報酬の中身は最高級品のたらこだ。なぜこれにしようと思ったのか忘れた。思い出せない。ただなんとなくマルコのことを頭に思い浮かべてたらこれが最良な気がしただけだったような。たぶんそんな理由だ。
てっきり喜んでくれると思ったのにどうしてかものすごく微妙そうな顔をされた。え、どうして?


「お前これ絶対顔で決めただろい」
「顔というか、マルコっぽいな、って…」
「顔じゃねェか」


え!絶対喜ぶと思ったのに。最高級品のたらこなのに。どうしてなの?こういうお土産みたいなのってその人にあったものを選ぶんだと思ってたけど違うのかな。


「あ、もしかしてたらこ嫌いだった?」
「…いや、ありがたく受け取っとくよい。あとで船のやつらと酒のつまみにでもするか」
「うん!きっとおいしいよ!」
「じゃあおれはそろそろ…」


帰る、と言おうとしたんだろう。それと同時に部屋のドアの向こうから「あゆむさま」と呼ぶ声が聞こえた。この声の主はもう何年も私に仕えてくれてる執事だ。


「はーい!じゃあマルコ、また今度…ってあれ?もういない…」


まるで妖怪のようだ。突然現れ突然消える。こういうのなんていうんだっけ。神出鬼没だったと思う。もしかしたらマルコは鬼か神様なのかも。


「なんて、そんなことあるわけないか。よくてパイナップルの妖精さんだよね」


船に帰ったら彼はさっき言ったように船にいるみんなとお酒を飲みながらあのたらこを食べるのだろうか。その時少しでも私のことを思い出して、あわよくば話題にでもなっていれば嬉しいと思う。
とりあえず今日は腹筋でもして黄金分割を目指そう。





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