マルコ×お姫様


「あ、また来たの」
「そう言ってお前さんも待ってたんだろい」
「うん、ずっと待ってた」
「ずいぶん素直なこった」


この男、マルコと名乗る海賊がこうして玄関ではない場所から訪ねてくるのは今日で3回目だ。一日にたった数十分の逢瀬であるしたった数回しか会ったことのない男を待っているだなんて王族ではかなり異端だとわかってるがそれもどうでもいいことだ。それもこれも国の顔だとなかなか外出を許してくれない家の者が全部悪い。

そういう経緯があってろくに家からも出してもらえず、それはもう大事に大事に箱入り娘よろしく育てられた私はこの海賊の男が話す内容にあっさり心惹かれていったのである。


「ね、いつまでこの国にいるんだっけ?」
「2か月間だな」
「ふーん…あっという間だね。そのあとはどこに行くの?」
「さあね。親父の気の向くままだろい」


マルコのお父さんはあまり計画性がないらしい。私のお父さんはもうこちらがうんざりするくらい計画大好き考えるの大好きって人間なのに。私だってこんな立場でありながら自由な人間だという自覚はあるけど、旅のあても決めないほど自由ではない。いや、ほんと、そういうの憧れます!


「いいなー。私が海賊になったらいっぱいやりたいことがあるのに」
「ほお。たとえば?」
「一面お花畑のところに行ってみたい!」
「なんか女らしいこと言ってるな」
「女ですけど?」


そしてマルコはなかなか失礼な男だ。はっきり言えばデリカシーというものがない。しかもそれでこちらが怒れば楽しそうに笑う性悪だ。


「花畑といえばこの国の隅にもあったな」
「え!そうなの?」
「なんだ、知らないのかい」
「うん…。なかなかここから出してもらえないから。視察とかはお姉さまたちが行くし」
「…王家ってのもなかなか生きづらいもんだな」
「なかなかっていうよりだいぶだけどね」


お姉さまたちだって視察でいろんなとこ回ったり挨拶したりするけど、それだって仕事の一環だし結局はやっぱり自由なんてものはない。考えてみれば私が昔から望んでいるのはただ自由であることだけかもしれない。


「そっかー。この国にもそんなところがあるんだね。いつか行ってみたいな」
「じゃあ今度行くかい?」
「え?」


なんだろうか。今「今度行くか」と聞かれた気がした。いや、まさかそんなはずはない。この男には再三私の身の上話をしてきた。自分の都合ではここから出られないのだと言ってきたはずだが。たまには外に出てみたいという願望がついに耳や脳まで病気をこじらせてしまったのだろうか。


「なに固まってんだい。行くのか?」
「…そんなばかな」
「バカはお前だろい。嬉しそうな顔のまま固まっちまって」
「行く!行きます!二度と戻ってこれない覚悟で!」
「…それは少し大袈裟だよい」


こいつは海賊だし顔もいつも眠たそうにしてるしバルコニーからしかやってこなくて不信感満載だけど、どこか信頼できる気もして。たかが3回しか会っていないというのにここまでほだされている私は今時はやりの世間知らずというものなのか。


「約束したからね!絶対連れてってね!」
「ああ、約束だ。じゃあまた来るよい」
「報酬はたくさんのパイナップルとバナナを用意しておきます」
「却下で」


拒絶の言葉を残してマルコはひらりと飛び降りてそのまますぐに見えなくなってしまった。最初はこんな高さから落ちたら死ぬ!なんてひとり騒いでいたけど、もう3回目だしなんていうか…慣れた。きっと4回目も同じように現れて去っていくのだろう。


「パイナップルとバナナはいや、か…」


しかたないから最高級のたらこでも用意しておこう。きっと喜ぶに違いない。





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