う、うーん…意識がふわふわしてる。そして背中が微妙に痛い。なにか圧がかかっているような、なんだろう?


「起きねェよい」


死んでんのか?

まだ幼い子供の声が頭上から聞こえる。ああよかった、人がいる。この背中の痛みから助けてもらえる…!
しかしどこかで聞いたような語尾に頭の片隅で起きてはいけないと警告を出してくる。さて、どうしようか。もう少し様子を見て…。


「起きろい」
「いだぁっ!」


な、なんなの。背中に鉄の塊でも落とされたかのような衝撃が走って意識を浮上させざるを得なくなった。痛みで反射的に飛び起き…られない。ちょっとどういうことなの…。


「こらこら、そこの素敵なおぼっちゃん。人を踏んではいけないと先生に…」
「うわ起きた」
「そりゃあ起きるでしょうよ。ていうか君が人を足蹴にしたから起きたんだ、け…ど…あれ?」


相変わらず少年は私を踏みつける足をどかさないので硬い体をひねって顔を拝見すれば、へんてこな髪形に綺麗な金髪、眠そうな目にたらこのような唇、そして私の知っている彼とは似ても似つかないみずみずしい肌。えーと、この子は…なんだ?マルコさんの隠し子?ていうか私はなぜここに?船は?マルコさんは?私は誰なの?私は白ひげさんちのみさき。うん、記憶喪失じゃあない。

そしてさらに混乱を極めていく。


「…いろいろ言いたいことも聞きたいこともあるんだけど、とりあえず足下してくれる?」
「いやに決まってんだろい。お前さんなかなか踏み心地がいいんで」
「君、子供だよね?」


彼に似ているようで似ていない。しかしやっぱり似ている。この見た目、どう考えてもマルコさん。でも背が低いし、声は高い。


「ね、ねぇ君お父さんは?そもそもお名前は?」
「父親?なんだそれ、食ったらうまいのか?」
「あのね、父親は食べ物じゃないんだよ」
「そんなこと知ってるよい。お前は馬鹿なのか?」
「くっ…コイツ…!」


怒りに震える拳を見せつけたってどこにあるのかわからない眉毛はピクリとも動かない。いや、わかるんだけど一見しわにも見えるし。ってそんなことはどうだっていいか。なんか理解できない現状に脳が勝手に現実逃避をして困っている。誰か助けて。


「おれの名前はマルコだよい」
「はい?」
「だからマルコ」
「え、それお父さんの名前でしょ?」
「だから父親はいないって言ってんだろうが」
「じゃあ君はなんなの?」
「お前がなんなんだよい…」


自称マルコくんがわけわからないって顔してるけど、ごめん私だってわけがわからない。父親はいなくて、でもこの子はあのマルコさんに激似で、名前も同じ、見た目もそっくり。だれか助けて。


「じゃ、じゃあ質問を変えるけど、ここら辺に白ひげって海賊はいる?」
「白ひげ!?そんな大海賊がこんな辺鄙な村に来るわけないだろい」
「え」


そ、それじゃあみんなはどこへ行ったっていうの。オヤジは?マルコさんは?サッチにエースは?やばい、いい加減泣きそうだ。


「お、おい急に泣くなよい…!おれが泣かせたみたいだろい」
「…ごめんね。ちょっと混乱してて…。ねえここはどこ?今の時間とか日付も教えてくれると嬉しいんだけど」


とりあえず現状を把握しなきゃと泣きながら子供に尋ねればさらに混乱することになってしまった。なんてったって私の知ってる時代から数十年ほど昔だったから。いけない、目の前が真っ暗になってきた。


「本当にお前なんなんだい」
「それは…今はちょっと説明できないかな。ごめんね」
「ふーん。まあいいけどよい」


さて、困った。ここが過去ならこの時代のオヤジを探したところで意味はない。とにかく元の時代に帰る方法を考えなきゃ。とはいってもこの混乱した頭ではロクな考えは浮かばないだろう。まずは何もかもリセットして落ち着かなきゃ。


「あ、私行くとこない…」


野宿という手もあるにはあるけどこんな何も知らない、もしかしたら物騒なところで女性一人で野宿というのは危険だと思う。まあ仮にも海賊なんだけど、しがない雑用なのでクマとかに襲われたら一発で死ぬ。元の時代に行く前にあの世に逝くことになるだろう。


「お願い…!私を君の家においてほしいん」
「却下。冗談言うなよい。なんでおれがこんな見ず知らずのあからさまに怪しいわけのわからない女と一緒に暮らさなきゃならねェんだ」
「せ、正論だけども…!」


神は私をお見捨て給うた。いつの時代も世知辛いものです。
こうして私はいつ帰れるかもわからない、そんな悩みを抱えながら過去を過ごすことになったのでした。



Title:Rachelさま




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