「…なにか」


おかしい。今日みさきに掃除を頼んだ。家に帰って最初はなんの違和感もなかったのだが自室へ入った途端どこかいつもと違う気がした。この違和感はやましいことがあるからか。
たしかに見られて困るものはないと言った。だから掃除をお願いしたのだ。しかしそうじゃない。見られて困るものがないわけでなはい。ただあいつなら気づかないとそう思ったから頼んだのだが。



「…まさか、気づかれたか?」


心当たりがあるものといえば本棚の一番下の隅。他の部分と違ってその一帯だけ不自然の突出はあるものの、それの意味がわかるのはここの家主であるおれだけだし、ましてや出会って数日程度の輩に気づかれるはずがない、そう思ったが。


「本の並びが違う…」


こまめに掃除しているからゴミも汚れもない。いつもと変わらず綺麗なまま。だが決定的に違うのはおれが決めた本の位置が違うということ。ここだけはまず間違えるはずがない。誰が触ると予測してるわけではないがなにかあった時のために決めた配置がある。それが違うのだ。



「おいちょっといいかい」
「どうしたの?」
「本棚、触ったか?」
「え?」
「…ノートに気づいたのかい?」
「え、っと…」


奴の目が彷徨った。これは…確定だな。
気づかれたのなら仕方ない。それはまあ100歩譲っていいにしよう。だが問題はその中身だ。さすがにノートの中まで見られては困る。


「ご、ごめんね。掃除してるときに気づいちゃって…。好奇心に負けたというか…」
「…まさかとは思うがあのノートの中まで見たのかい」
「え!ううん!さすがにそれはダメだと思って見ずに戻したよ」
「…そうか」


なんとなくだがみさきは嘘をつけるような女じゃない。たとえ誤魔化すことはあっても、自分のしでかしたことには正直な奴だと思う。だから見てないといえば見ていないのだろう。変に嘘のうまいやつじゃなくてよかった。


「ね、ねぇ。なんでわかったの?私がノートに気づいたって」
「…本の位置が違う」
「えぇーっ!さ、さすが几帳面…!」
「は?」
「あ、いやなんでもないです…ははは」


初対面の時からそうだったが、こいつはなにか重大なことを隠してるんじゃないかと思う。そしてそれはおれにも関係してることなんじゃないかとも。そうでなければなぜこいつがおれが几帳面であることを知っているのだろう。
みさきという人間がなんなのか、最初に聞いたことがあったが話したくないと言われた。多少気になるとこともあるが、話したくないのなら仕方がない。こいつだけが知っていればいいこともあるのだろう。


「とにかく、あの本棚は触らないでもらいたい」
「は、はい!」


隠し事があるのはおれもみさきも同じだからな。



Title:まばたきさま




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