「よし!」


服の袖をまくって気合を入れる。これから掃除をするところなんだけど…はっきり言って掃除なんて必要ないんじゃないかってくらい片付いている。物も少ないし。うーん、マルコさんもあまり多く物を置く人じゃなかったし几帳面というか綺麗好きだったしなぁ。
とりあえず見られてまずいものはないって言ってたし掃除はしてくれていいって言われたし。ちなみにご飯は作らなくていいって言われた。なぜかって?なにを作られるかわからん、危ない、だそうです。まだ完全には警戒を解いてもらえたわけじゃないみたいです。

ちなみにマルコくんはどこかへ出かけました。


「うーん、本棚の中の本もきれいだ…」


本棚の中で整列している本たちは綺麗に並べられているうえ埃一つ積もっていない。本当に綺麗好きだな。しかも本は大きさ順にきっちり並べられている。あ、でも。


「なんでここだけ出てるんだろう」


数冊だけ背表紙が飛び出している本があった。押し込んでみてもびくともしない。ここ一帯だけ長い本なんだろうか。これはちょっとした疑惑だった。ただ単に他の本より大きい、それだけかもしれないのにどうしてか気になってしまって、気づいたらその本を手に取っていた。


「なんだ、普通の本じゃない」


なんてことはない、本当にただの本。他の本と何も変わらない。表紙に載ってるタイトルだっておかしなところはない。後の数冊も同じ。上の段にある本と大きさだって一緒だ。ではなぜここだけ飛び出しているのか。飛び出している部分の本をどかして奥を覗きこめばそこには一冊の本があった。


「な、なにこれ」


手に取ると明らかに他の本とは違う、というよりそれは本ではなくノートだった。少し厚めの色褪せたノート。表紙には何も書かれていない。正直ものすごく気になる。だけど見てはいけないとも思う。二つの思いがせめぎあうけど、私はそのノートを元の場所にしまって数冊の本も元に戻した。これは見なかったことというより忘れたほうがいいことかもしれない。あのマルコくんが隠すくらいだ。他人にはもちろん見られたくないし、本人も知らないフリしておきたいものなんだろう。ただ決して捨てたい物ではないのかもしれない。


「…さて、掃除の続きしなくちゃ。お洗濯も」


あのマルコさんにどんな過去があったのか、詳しくは知らない。知ってはいけないこともあるのかもしれない。少なくとも彼が話してくれるまでは忘れよう。話してくれなくてもそれは彼だけが知っていればいいことなのだろう。



Title:まばたきさま





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