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あの頃、そして今の君と私

「あははは、げほっ」


かすれた咳をついてのどが渇いていたことに気づく。そういえば今テレビで流れているバラエティ番組がおもしろくて1時間くらい笑いっぱなしだっけ。そりゃあのども渇くよなと思いつつもテレビから目が離せない。もしこの一瞬見逃したらこれ以上の笑いはない気がして。少しの間葛藤したが、お茶がテーブルの上に出しっぱなしだったことを思い出して椅子に腰かけて雑誌を読むクロコダイルに声をかけた。


「ねー、それとってー」
「ん」


雑誌から目を離すことはないがしっかりお茶を差し出してくれた。コップに入っている冷たいお茶を流し込めば、内臓まで冷えていく感覚がした。


「ちょっといい?」
「なんだ」
「どうしてそれ"って言っただけなのにお茶のことだってわかったの?」


テーブルの上にはお茶以外にティッシュや新聞ものっている。なのになぜその中でお茶だと気づいたんだろう。


「ずいぶん今さらな質問だな」
「だって気になるし」
「いつものことだろうが」


はて、いつもこんなんだったっけ?ふだんこの時間は食器の後片付けしてお風呂沸かして…そのあとはその日あった出来事をコーヒーやココアなんか飲みながら話したりするのだけど。


「軽く咳した後はだいたいお茶をほしがるからな」
「ふーん。よくみてるね」


クロコダイルは結構人のことを観察している。観察というか、察するというか。案外本人よりもこの男のほうがわかっていることが多くて時々びっくりしてしまう。まあその勘の良さに助けられたこともたくさんあるんだけどね。


「あ、そうそう聞いてよ」
「手短にな」
「それがさー」


今日はコーヒーもココアもないけどいつもと変わらないおしゃべりの時間が始まる。私はこの時間が大好きだ。いつでも忙しいクロコダイルが家にいて自分の話を静かに聞きながらたまに彼の話も聞く。穏やかに流れるこの瞬間は何にも代えがたい大切なもの。


「公園に行ったらね、小さい男の子と女の子がいたの。あんまり見続けるのは失礼かなと思ったんだけど、なんだか可愛くてね」
「お前はガキが好きだからな」
「ガキじゃなくて子ども!でね、男の子は立ってて女の子はしゃがんで泣いてたの。その男の子は何を言うわけでもなくて、ただ腕を組んで仏頂面してて。でもすっごく困った顔してたんだー」
「…そうか」
「なんか似てると思って!」
「は?」


その場面を見てないクロコダイルにはわからないと思う。だけどあの小さな二人がなんだか自分とクロコダイルに重なった。私たちが小さい頃もあんな感じだったなって。泣き虫の私を慰めるわけでもなく、ただ口を閉じて困った顔をしてただけの彼。最後には「もう泣くな」って私の腕を掴んでむりやり立たせて手をつなぎながら夕日の中を帰る。それが日課だったなぁ。


「結局その男の子、泣いてる女の子の腕をつかんでそのまま帰っちゃったみたいだったよ」
「ほう…。どこかの誰かにそっくりだな」
「クロコダイルにもね」


ふん、と鼻で笑われたけど横顔を見れば満更でもなさそうに笑っていて、きっとクロコダイルも同じように私と自分の幼いころを思い出してるんじゃないかと思う。


「懐かしい光景だったよ」
「おれからすれば今も変わらないがな」
「そ、そんなことないよ!もうちょっとのことじゃ泣かなくなったし!」
「ならドラマ観るたびに泣くのやめろ」
「あ、あれはいいの…!感動してるだけなんだから」


彼の言う通り、今でも私の泣き虫は変わっていない。これ泣けるよ、と言われた映画をみて思いっきり号泣してしまったのは記憶に新しい。そうやって私が画面と向き合いながら泣くたびに無言のままタオルを差し出してくれるようになった。
昔は泣きじゃくる私の腕を引っ張るだけだった男がそっとタオルやハンカチを貸してくれるようになったんだから成長したもんだ。


「あ、そういえば今日感動ものの映画やるって言ってたっけ」
「なら最初から用意しとけ」
「それはいや」


なんだかんだ私を気にして憎まれ口を叩きながらも慰めようとしてくれる彼を見るのが好きだから。だから今日もタオル一枚よろしくお願いしますね。



Modoru Main Susumu
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