そのうち私はいなくなるから今から慣れるのもいいかもしれない

ああ、マルコ先生…今日もそのツルっとしたお尻が素敵です…!こう上手いこと撫でられないでしょうか。さりげなくさりげなーくトゥルンと撫でてみたい。できることならさりげなくどころか派手に撫でたいんだけど。でもそうしたらきっとお得意の回し蹴りを頂戴することになるだろう。なにそれいい…!


「ハァハァ…!」
「うわ…ゴリラがまた鼻息荒くしてしてやがる。いい加減動物園に引き取ってもらったほうがいいな」
「うるせーソバカス撒き散らすバカタレに私のこの熱い気持ちがわかってたまるか!」
「おれがわかったらおかしいだろうが!」


ちっ…。せっかくマルコ先生と私の美しくも情熱に満ちた時間を邪魔しやがってからに許さん。ああ、でももう卒業も間近だからこんなソバカスわかめでもおさらばなのか。


「清々するわアホンダラ」
「そりゃこっちのセリフだアバズレゴリラめ」


高校卒業したらどうしよう。とりあえずマルコ先生と素晴らしい愛に溢れた日々を送ることは間違いないな。うふふ、ど、同棲なんかもしたりして!それでそれで毎朝いってらっしゃいのちゅーなんかもしちゃったりして!

「ラブイズフォーエバー!」
「あ、もしもし業者さんですか。あ、はい。ゴリラが一頭逃げ出したようで。そうです、メスです。狂暴です」
「おいこらクソエース!携帯割るぞ」





「ってことがあったんですよ」
「お前ら相変わらずだよい。そろそろ卒業だってのに」
「わ、私は悪くないですよ!あのバカが私と顔合わせるたびにメスゴリラとかいうから」
「まあ間違ってねェな。残念ながら的確だ」
「マ、マルコ先生も相変わらずですね」


正直なことを言えばあのソバカスのおかげで卒業に対する寂しさが薄らいでいるのは事実だ。もうあの学校に通うこともなくなる。ともなれば校内でマルコ先生に会うことも話すこともなくなる。付き合っているのだからこうして家やそれ以外で会えるのもたしかだけど、それとこれとはまた違う。学校ならではの良さがあった。でも高校は3年と決まっている以上、こんなこと言ったって仕方ないんだけど。


「んふふ…!」
「…気持ち悪いことこの上ないな」
「ね、マルコ先生も寂しいですか?」
「…は?」
「ほら、もう少しで私も卒業でしょ?」


もうね、はっきり言って学校で先生に会えなくなるのは寂しいです。というか私が去るのだからむしろ先生が寂しそうにしてくれてもいいんだけど…!でもこの恐ろしいくらい鉄面皮な先生が寂しがるだろうか。も、もし少しでもそんな素振りを見せてくれたら速攻で写真を撮ろう。そして焼き増ししてエースにも配ってやろう。フフン、私がマルコ先生に愛されてること、存分に思い知るがいいわ!


「どうです?泣いちゃいますか?」
「たとえある日唐突にaaaが宇宙空間に放り出されたとしても泣くことはねェだろうが…」
「す、すみません。それは私が泣きそうです」
「…少しくらいは、まあ…寂しいかもしれねェよい」
「な、なんと…!」


あのマルコ先生がデレた…だと?
あああ!しまった!今のセリフ録音するの忘れたァッ!くっ、こんなお宝な事態めったに起こらないというのに…無念…!
しかし…そうかぁ。マルコ先生も少しは寂しく思ってくれるんだね。これで私も悔いなく卒業できる。


「思えば入学した時からずっとマルコ先生のことが好きだったんですよね」
「つまりそれはおれがお前にストーカーされ続けたという証でもあるな」
「…えーと…、そのうち私はいなくなるから今から慣れるのもいいかもしれないです」
「…は?」


私がいなくなって寂しがるマルコ先生ももちろんおいしいけど、でもマルコ先生にそんな思いはしてほしくないから、今から私がいなくなることに慣れるのもいいかもしれない。


「あ、でも自由登校になったらどうし…ぐぼあっ!」


え、なになに。なにが起きたの?鼻に何かが装着されたと思ったらそのままものすごい力で投げ飛ばされたんですけど?その何かはマルコ先生の指だった気がするんですけど?


「い、いだだだ!まさかの鼻フックからの背負い投げ…!超痛い!でもなんかいいかも!」
「…お前」


ゴロゴロと床をアザラシのごとく転がっていると背後からとんでもない重低音ボイスが聞こえて転がるのをやめた。というか後ろで仁王立ちしているお方が怖すぎて死ぬ…!


「あの…マルコ、先生?」
「そんなくだらねェこと考える暇があるならもっとマシなこと考えろい」
「え」
「…そんなことに慣れて…なんの意味があるんだ」


思い切り眉間に皺を寄せて小さく零した先生に自分がとんでもない失言をしたことに気づいた。いつも適当にあしらわれてきたけど、怒られたことはそんなにない。でも今の先生は怒っている。そして同じくらいいやな思いにさせてしまった。


「ご、ごめんなさい。いい案だと思ったんですけど」
「…もしおれが同じことお前に言ったらどう思う」
「…泣きます。泣いてマルコ先生の秘密ばら撒きます」
「おい待て。おれの秘密ってなんだ」
「嘘です、なにもありません」


ちょっと想像してみた。もしマルコ先生が離任したら。そしてこんなふうに二人で過ごしてる時にそのうち自分はいなくなるから今から慣れろなんて言われたら。そんなこと言われたらきっと絶望だ。自分がいないことに平気な顔しろだなんて、嘘でも冗談でも言われたくない。でも私は大した考えもなくマルコ先生に言ったのだ。


「グズのくせに妙に考えるからだよい」
「…グズの分際で余計なこと言ってすみませんでした」
「グズを三倍に濃縮してもまだ足りないな」
「それはもうクズといってもいいのでは…!」


もう一度私の頭を渾身の一撃でぶっ叩いたあとマルコ先生は笑ってくれた。私ももう一度ごめんなさいと謝って先生の手を握った。

寂しいのは当然。いつも傍にいたものがなくなるのだから。でもきっと誰にだってそう思うわけじゃない。私だから、マルコ先生だからそう思うんだ。その寂しさこそが時間をかけて二人の間で築かれたものなら、咎める必要も慣れる必要もないはず。


「自由登校になったら毎日お顔を見に行きますね!」
「毎日は来るなよい。来る日も来る日もゴリラ顔見せられたんじゃ仕事にならねェだろい」
「あ、あのゴリラはゴリラでも愛くるしいゴリラで」
「間違えて動物園に通報しそうだな」
「エースの悪夢再び…!」


でもちょっとだけ思うんだ。卒業して、もっともっと長い時間が過ぎても私たちはこのまま変わらず隣にいるんじゃないかって。

だったらもう寂しさに慣れる必要なんてないかもしれないね。



Thanks:ゆうさま
Title :Rachelさま


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