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「あいつら限度を知らねェから困るよい」
「マルコさんは結局お酒飲めませんでしたからね」
「車があるからな。しかたねェよい」


あのあと宴はさらに盛り上がり大宴会になってしまった。はじめの方こそ私もいろいろ質問されたりしたけど、最後はだれとだれが飲み比べするだのロシアンルーレットがどうだの結婚の話なんかあっという間に彼方へはじき出されてしまった。
私も少しはお酒を飲んだけど、マルコさんは飲めないしご飯がたくさん出てきたからそっちに夢中になってしまった。


「ご飯おいしかったですね」
「お前たくさん食べてたからなァ」
「お、おいしすぎるご飯がいかんのですよ!おかげでおなかが丸く…」
「何言ってんだい。丸いのは腹だけじゃねェだろい」
「失敬な!」
「事実だろい」


事実である。顔も丸いしなんか全体的に丸い。最近ちょっと太ったような気がするし。


「でも楽しかったのでいいんですよ!終わり良ければ総て良し!」
「終わりついでにもう一つ行きたい場所があるんだが」
「行きたい場所?」


いったいどこだろうか。直帰するとばかり思ってたからこれは意外だ。もう夜も遅いしこんな時間から行ける場所なんて限られてる。もともと予定していたとこなのかな。


「今日は本当はどこへ行きたかったんですか?」
「ん?あァ、それならもういいんだ」
「いいんですか?」
「あァ」


それは後日改めて行くから?横顔を盗み見ても真意はわからない。ただ道路を走るたくさんの車のライトが当たっていてちょっと幻想的な雰囲気だ。オレンジや白、薄い青色。それらの光のせいで大人の色気というか、哀愁のようなものを引き立たせている。思わず見とれてしまうほどに。

そんな現実なのか夢の世界なのかわからないところをさまよっていたけど「もうすぐだ」というマルコさんの声で現実に引き戻された。


「ここ、ですか…?」
「いいだろい」


マルコさんが行きたいという場所が見えた。そこは、マルコさんと私が初めて会ったあの居酒屋で。


「久しぶりだなァ。あれ以来だ」


あれ以来、っていうのは初めて会った時のことだろうか。車を駐車場に止めて久々にその暖簾をくぐる。中はあの時と同じように人でいっぱいで店員さんからカウンターでいいですかと聞かれた。


「そっくりですね、あの時と」
「あァ、同じだよい」


案内された席に座って適当にお酒を注文する。やっぱりマルコさんは飲まないみたいだけど、遠慮するなといわれたから好きなのを注文させてもらった。あの日と違って今日はすでに飲んでいるから気を付けないといけない。油断してるとやつはすぐにやってくる。明日の朝になって二日酔いなんてのはごめんだからね。
ぽつぽつマルコさんとたわいない話をしているとすぐにおつまみとお酒がやってきた。ここのこういうスピーディーなとこが好きだ。


「マルコさん今日は飲めなくて残念ですねー」
「おれは帰ってからひとりでやるからいいんだよい」
「なんならお付き合いしましょうか?」
「いいねェ」


どこまで本気かはわからないけど、なんだかいつもよりマルコさんが楽しそうに見えて私まで嬉しくなってしまう。


「社長さん、優しくて豪快ですてきな方でしたね」
「あァ。オヤジはおれたちのことを本当の息子のように思ってくれる」
「嬉しいんですね」
「…そうだな」


優しく、そして何かを懐かしむようにそっと微笑むマルコさんにときめきよりなぜか切なさを覚えた。


「マルコさん…優しい顔して笑いますね」
「は…?…なに気持ちの悪いこと言ってんだい」
「き、気持ち悪い!?」
「冗談は顔だけにしてくれよい」
「常々思ってますがマルコさんは私の顔を貶しすぎです」


穏やかな時間が流れていく。たいした話をするわけでもなく、だからといって会話が途切れることもない。マルコさんは私のどんな話にも耳を傾けてくれる。…たまにひどいことサラッと言われるけど。


「あの時とはずいぶん違いますよね」
「なにがだい」
「だってあの時は突然の結婚の話にお互いグチばっかだったじゃないですか」
「そりゃあ顔も合わせたことないやつと結婚しろって言われて喜ぶ人間のほうが稀だろい」
「それはただの変人ですよ」
「だからおれは普通だ、普通」


それがまさかこんなふうに気持ちが変化するんだもん。自分のことながら人生って不思議だわ。でも悪くない。


「まあ今思い返してみればこんなのもアリだと思うよい」
「そうですか。実は今私も同じこと思ってました」


過去の話とは実に弾むものである。過去話を肴にお酒も少しだけと思っていたのに気が付けば何杯も何杯も飲んでいた。相変わらず会話は途切れない。結局私たちが居酒屋を出たのは閉店時刻になった時だった。






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