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「おい支度はできたかい」
「はーい!今行きます」


リビングからマルコさんが私を呼ぶ。今日はマルコさんが前に空けといてくれって言った日なんだけど、どうやら出かけるらしい。行き先はまったく聞いてないのでどんなスケジュールなのかさっぱりだ。聞いたところで「すぐわかる」しか言ってくれない。
とにかくどこへ行っても大丈夫なようにカジュアルすぎない服装と髪型にしておく。ヒールも踵の高すぎないものを。とかいってこれで登山しますとか言われたら瞬間でターン決めるよね。


「ここから遠い場所なんですか?」
「いや、そんなに遠くない」


ちなみに車までの短い道中、ちょっと手なんか繋いでみたいかな、なんて思ってさりげなくマルコさんの手に触れればもんのすごい勢いで離れていった。そ、それはちょっと寂しいかな…ははは。

毎回思うけどこの車乗り心地いいなぁ。シートがもふもふしてる。まるでマルコさんの髪の毛みたい。


「乗り心地いいですね。なんだかマルコさんのか…」


ちょちょちょちょっと待って…!うっかりマルコさんの髪のようだと言おうとしたけど、髪の毛の話は禁忌だった…!マルコさんってばまだ割り切れてないみたいだし。


「おれの、なんだい」
「いや、その…」
「ん?」
「か、髪の毛のようだと…」


い、言ってしまった!怖すぎてマルコさんのほうを向けない。どことなく運転席のほうからどんよりしたオーラを感じる。完全に地雷を踏んでしまった。もう自分の頭がバカすぎてお話にならない。


「ち、違うんです!べつにそういう意味じゃなくて!」
「じゃあどういう意味だい」


ああああっその満面の笑みが恐ろしいです。目を血走らせて食い入るように見てたら目の前にスッと手が伸びてきた。うん、そこまではよかった。


「いったぁぁ!目、目がぁぁっ!」
「自業自得だよい」
「ヒィー!眼球破裂した!」
「デコピン程度でするかい」


ちょっと待ってよ、尋常じゃないくらい痛かった。マルコさんのデコピンは尋常じゃない…!血が出てないか思わずミラーで確認してしまった。もともと血走っていた目がさらに血走って大変なことになっている。
マルコさんの言ったとおり自業自得なのだがちょっと納得いかなくて恨めしく視線を寄こしてやれば非常に楽しそうである。これが私たちのスキンシップ方だとしたら少し過剰すぎやしないだろうか。っていうかまだ痛いんですけど!

「涙出てきた…」
「ついたぞ」
「え…、え!?なにここ家大きすぎませんか!」


マルコさんがついたというので外に目をやれば大きすぎる家らしきものが目に入った。いや、さっきから視界には入ってたんだけど大きすぎて博物館かなにかかと思った。マルコさんの部屋でも十分広いと思ってたのにここは桁違いだ。


「な、なんなんですかここ…」
「早く入るよい」
「入るの!?」


だれが見たって分かるくらい狼狽している私も気にせずマルコさんはどんどん中へはいって行ってしまうではないか。


「待ってください…!」


私は慌てて駆け寄った。庭が広い建物が大きい。そして玄関の扉も大きい!なにこれ巨人が住んでるんですか。もうびっくりっていうより完全にビビってしまっている。それなのにマルコさんはおもむろにインターホンを鳴らした。


「誰だァ?」
「オヤジ、来たよい」
「マルコか、入れ」


オ、オヤジ?オヤジって確かマルコさんが働いてる会社の社長さんの愛称じゃなかったっけ。ってことはここ社長さんの自宅!?


「マ、マルコさん」
「大丈夫だ」


いったい何が大丈夫なのか。とりあえず私はまったく大丈夫じゃない。それに気づいたのか数歩先を歩いていたマルコさんが戻ってきて私の手をとった。


「行くよい」
「は、はい…!」


はじめてマルコさんと手をつないだ。






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