あの方は、正真正銘“強い”人だった。


かつての主と、その友である方を思わせる強さを持つ人

利用しようと、その自我さえ消し去ろうとした私でさえを赦すような人。



何故、と思った。



何故私を赦すのだろう。

死さえ覚悟していた。

最後の賭けだったのだ、あれは。

主の願いを、叶えるための。



(例えそれが誰をも不幸にしようと)



なのに、与えられたのは“赦し”だった。



向き合えと

逃げるなと

死んで、終わらせるなんて許さないと。



泣いて、そう言っていた。


きっと、あの時私は既に落ちていたのだ。


触れた頬が暖かった。

生きた、証である温もり。

くすぐったいと笑っていた。

その時の満たされた想い。


その時が永久に続いたなら、それは確かに私にとって幸せだった。
けれど訪れたのは、永久の別れ。


私は、なにをしていた。

なにを見ていた。

なにを聞いていた。

側にいながら、また同じ過ちを犯して。


「なにもかも、連れていくから。」


悲しみも憎しみも
過去の遺恨全てを、連れて去って行った。


「だから、どうか幸せに。」


何故、もっと早くに伝えなかった。
どれほど望んでも、もうこの手は触れる事も、言葉を交わすことさえ叶わない。




彼の人は去り、私は取り残された。

(また、繰り返す)

せめて伝えられたなら、良かった。



一生かかっても足りないくらいの「愛してる」を、
貴方に。



2008/01/02






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