原作捏造キャラ崩壊テンコ盛り
事の発端は、サッチがウッカリ悪魔の実を手にしたことである。そこそこ名の知れた海賊船との戦闘で得たそれは言うまでもなく一番のお宝で、その日の戦闘当番だった四番隊隊長が直々に手に入れてきたものだった。
禍々しく渦を描く模様。それに一際目をぎらつかせたのは、白ひげの名に身を隠し、来たる時を待ち侘びていたティーチ。後に黒ひげを名乗り、世界を震撼させることになる予定の男である。祝いの宴の席、周りがどんちゃん騒ぎをする中、どうやってあの実を奪ってやろうか。ぐるりぐるりと腹の内で算段を練っていた。が、
「やれ黒や、悪巧みは人から見えぬところでせよ」
音もなく近づいてきた大谷に気付けず、耳元で低い声に突然囁かれて内心冷や汗をかく羽目になった。
「ぎょ…ーブさんか。オイ驚かせんじゃねぇよ、縮み上がったろうが」 「それはそれはすまぬことをした」
ふわりと離れつつ芝居がかった声で宣った大谷は、油断なくこちらを見るティーチに笑ってみせた。背後で回る数珠が楽しげに明滅する。
「時に黒や、今まさに欲しい物があるな」 「あ?そりゃ俺も海賊の端くれだ。物欲なんざ枯れた事ァねえよ」 「それで、それが他人の手にあった時。…ぬしならどうする」
見透かされている。 更に脅しをかけられている。 ティーチは人一倍そういった空気に関しては適確に感じ取れる人種であった。そして、二番隊隊長を務め上げるこの男に、現時点では敵わないことも冷静に判断できた。 …ここははぐらかして逃げるが勝ちか、それとも思い切ってこの男もこちら側に引き込んでしまうか。
「敵だったらそりゃ、脅して奪うさ」 「ほう…」 「味方なら、そうだな、賭けの対象にでもして頂いちまうかな」 「………」
ティーチははぐらかす方を選んだ。今はまだ時ではない、身を潜めるが吉と判断した。 そして、それが間違いであったと知る。
「……違うであろ」 「?」
「……『これください』であろ!!」
ギャン!!!と空気を裂いて数珠が迫り、瞬く間に野太い両腕を背中で拘束する。ついでに両足首もまとめられ、おまけに口に一つぶち込まれ、芋虫状態にされたティーチはそこそこ高い位置から落とされた。 俯せで、大谷の膝の上に。
「おっ、始まったか!ギョーブさんのお仕置きタイム!」 「今日はティーチか…」 「おい待てよいあの体制、もしや」
ざわりとどよめくギャラリー。大谷の数珠が爛々と光るのを見て大体の現状を把握する中、マルコが震える声で指摘する。胡座をかいた膝の上に俯せのティーチ。数珠は拘束にすべて使われている。そして今まさに、大谷の右手が高々と掲げられ一一一一
スッパアアン!!!!!
「「「尻叩きだーーーー!!!!!」」」
でっぷりと肉のついたティーチの尻にクリーンヒットした。素晴らしく高い音が鳴る。 うわああ痛っテェぞあれ、何したんだよティーチのやつ!! クルーが口々に言いつつそろり目を逸らす中、尻叩きの音は止まない。
「な、なんだよあれ…、マルコ、あれなにこわい」 「…ああそうか、エースは初めてか」
あまりの光景に戦くエースは、イマイチ現実を把握しきれていない顔でマルコのシャツをにぎる。いつもなら皴になるから離せ、くらいは言うマルコも今は好きにさせていた。…目が遠いことから見るに、単にそこまで気が回らないだけかもしれない。ふらりと行き場のないマルコの左手がエースの頭の上に乗る。
「ギョーブさんはな、オヤジの右腕なんだよい。オヤジが放任主義な分、やらかしすぎる俺らをああやって躾(物理)してくれてるんだ」 「躾(物理)って」 「あの尻叩きはその中でも一番きついお仕置きでな…見ろよいあのティーチの顔。開始一分足らずにして既に涙目だよい」 「……………(絶句)」
宴の席である。千と六百の大家族が一同に会す席である。その全員の視線を集めながらティーチは泣いた。実際尻の痛みは大したことのない、音だけ派手になるよう計算された物であったが、この歳で家族の前で、大の男が大の男に尻を叩かれる。その現実が痛かった。
「おい吉継。その辺にしといてやれ」
ティーチが生まれてきてからこれまでの様々を反省・後悔していた時、一つ声が届いた。静かでいて威厳に満ちたそれは言わずもがな、白ひげその人のものである。心の中で叩いた数を98、までカウントしていた大谷は、キリの悪い所で呼ばれ些か不機嫌そうに手を止めた。中空で剣呑に静止させ、よしと言われればすぐにでも再開するであろう位置で。
「しかし父よ、兄弟間で玩具の取り合いならまだ可愛いものを、黒は博打にて奪い取ろうと言うのよ。そもそもそれは最初に手にした者が責任と権限を持ち管理すべきであろ。譲渡するにはそれなりに理由を述べ手段を選ばねば後に後悔するのは本人ぞ」 「お前の言い分も一理だがな。ここァ海賊船だ。あまりギチギチに規則で縛るのもどうかと思うぜ」 「…!(お、オヤジ…)」 「最初に『これください』も言わずに賭けを提案するのにか?」 「なんだとティーチ、それはいけねェな」 「!!!!(お、オヤジイイイ!!!)」 「だがまあ、吉継も鬼じゃねえ。ちゃんと謝って相手にも『これください』を言えたら許してくれるだろうぜ。なあ?」 「………父の言葉なら仕方なし。我も譲歩しよ。…黒や、ぬし、どうする」
完全に夫婦間での教育論議です本当にありがとうございました。 がぽ、と轡代わりになっていた数珠が外され、ティーチの口が自由になる。涙の膜を限界ギリギリで揺らしながら、ぽつりぽつりと言った。
「…ギョーブさん、すまねえ…俺が間違ってたよ…。ちゃんと最初にくれって言うよ…」 「分かればよい。…ティーチだけではない、ぬしらも特と肝に命じよ。力任せに奪うのは言の葉が通じぬ相手だけにすると」 「「「「「はい。」」」」」
圧倒的お説教です本当に以下略。 総勢千六百人の息子さん達全員の思いが一つになった瞬間であった。 ふわりと優しく拘束を解かれたティーチは起き上がり様に背中をぽんぽんと叩かれ(ちゃんと大谷の心の中で100までカウントされた)、最後のお説教を聞く。
「我とてぬしが憎くてこうしている訳ではない。ぬしが可愛いからこそ後悔させたくないのよ。…わかるか?」 「ぎっ、ギョーブさあああん!!」 「ヒヒ…仕方のない奴よ。ほれ、きやれ」
大谷の膝に顔を埋めてわんわん泣き出したティーチ。その頭をゆっくりなでる大谷。酒も入っているからか、その場の空気に当てられもらい泣きする兄弟多数。一人素面のエースは思った。
大谷さんマジオカン
一一一一一 ちゃんとサッチにこれくださいを言えたティーチは意外とあっさりヤミヤミの実貰えたらしいですよ。 サッチ曰く、 「能力者盛り沢山の船じゃ海から引き上げる奴がいねぇとだろ!」 だそうです。イケメンですね。 ティーチは今回の騒動で心が折れて謀反なんて考えなくなりました。 正直すまんかった。
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