「腕、怪我してる」
「え。ああ、棘みたいなのに引っかけちゃって」
「そのままだと雑菌が入るだろ。こっちこいよ」


手を伸ばしたのは、私のほうからでした。



庭に一つだけある大樹の陰に二人、俺たちは居た。大樹の名前は何だったか、忘れてしまったが初めて見たときその大きさに感動したものだ。屋敷に越してきた最初の時はよくこの場所で日向ぼっこをした。その場所に今は自分だけでなく違う人間の姿がある。なんだか複雑な気持ちだ。

彼の傷は思ったより浅く、汚れがつかないようにすればいいかと自分の服の一部を破り傷口を覆ってやった。唾つけときゃ治る、とぼやくと彼は苦笑いしながら「それもそうだ」と言うのだ。「だからもういい」と腕を掴まれその時初めて距離を意識した。身体が勝手に硬直したあと、後ろへ逃げるように転んだ。重力が加わったらしい尻が痛む。
同時に訪れるもわもわとした熱気。木陰から出てしまったようで身体の半分が光を反射し眩しく照らされていた。ぬっと彼の身体も木陰から出てきて焦った様子で手を差し伸べてくる。お前が悪いわけじゃないのに、謙虚な奴。
手をとらず俯いていると浮遊感に襲われ驚き手を見る。自分の手と彼の手があった。そして木陰に引っ張られ先程まで座っていた場所に戻される。隣を見ると彼がいて、二人の間には一人分の距離があいていて遠慮が感じられた。俺の手と彼の手は、いまだに繋がったままだった。

「君の手、冷たいんだな」
「…生まれつきなんだよ」
「さみしかった?」
「誰が?」
「きみが、」

そう言っては握る力を強める。いろんな感情が押し寄せてきて手から千切れそうになった。

「さみしいってなんだかわかんねぇし」
「たとえば?」

俺は昔のことを思い出していた。
つらい
くるしい
かなしい

「それ、さみしいんだよ」

隣を見ればそこに君がいて、顔をくしゃくしゃにした俺が居た。









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