だめだ、と心が悲鳴を上げた。
どうして、と身体が震えた。


彼は危ないと何かが俺に訴えかけるのだ。転んだ際ぶつけた箇所がズキズキ傷む。
おそらく俺は彼に怯えているのだと思う。彼の瞳が無垢すぎて、その瞳に映る自分があまりにも醜貌だと思ってしまったから。彼が怖いのだ。
ついに目の前に来てしまった彼が俺を見下げる。俺は腰が抜けたみたいにそこから一歩も動けないから、逃げられるわけがなかった。先程だせたはずの声もでない。
その間にも彼は俺のほうへ手を伸ばす。その手が俺の肌に触れてぴしりと言うのだ。刹那に訪れる人の体温にさらに身体を硬直させられ目をギュッと閉じる。俺の眼が閉じると同時に、彼の眼がぱちりと見開いた気がした。それを再度確認しようと目をゆるりと開ければ、俺は彼の右手に咬みついていた。
ロイドが慌てて手を引く。鮮血がロイドの右手と俺の口元を滑り落ちる。彼の服と俺の髪の毛と同じ赤だった。
血の気が引いたのか顔を真っ青にさせたロイドは、己の手の処置より先に服を脱ぎ始めその服で俺の口元の血を拭き取るのだ。その手つきがあまりにも優しすぎて思わず叫びそうになる。その服を手に握らされるとロイドが俯いた。

「ごめん」

考え込んだ様子をみせた後、ロイドは謝罪をひとつ零すと逃げるように階段を駆け下り、開きっぱなしだった扉を閉め消えていった。
城に戻った静寂と手に持っている赤い服をただじっと見つめ、それからちょっぴりの虚無感。いやちがう、ロイドという少年に、俺は少なからず迷惑していたはずだ。だから身を引いて逃げようとしたし、咬みついた。ただ一瞬だけ触れたときに感じたそれが長年待ち望んでいたものと思いたくなかったからなのしれない。













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