隠し事をしてました。

傷つくのが嫌でした。



その日はどしゃぶりの雨で、曇天で屋敷は薄暗い。それこそ鼠がそこらじゅう走りまわってるみたいに。だが雨は嫌いじゃない。窓の先にある街並みが見えないからなのかもしれないし、この城にほんとうに独りの気がして堪らないから(初めからひとりなのだ)雨の壁が俺とその他を隔てる壁になってくれている気持ちになった。鍵が開けっぱなしの城を訪れる者は今日も居ない。ごく稀に興味本位で門の外に立ち竦んでいる人はぽつりぽつり見かけたりするのだが、それでも城内に入ってくる人など到底居なかった。つまり誰もこの城を訪れた人などいないのだ。



どしゃぶりだった。
それなのにギギギと音がした。
初めてだった。
城の扉が開いたのは。

耳に酷く焼きつく音だった。聞きなれない音に違和感を覚えただけなのかもしれない。長ったらしい螺旋階段をゆっくり滑り降り、手摺から乗り出し下を覘くとそこには赤い青年が佇んでいた。


それはとても真っ赤な人だった。丁度、自分の髪の色に似ていると思った。多少自分の髪の毛のほうが色褪せて黒の混ざったような色をしているが、例えるなら彼の赤は太陽の色だった。(屋敷内が鼠色なのにそこだけ自棄に眩しいのだ)
彼の身体的特徴からすると十代後半だろうか。雨のせいでぺたりとしてしまった髪の毛を懸命に掻き直していた。気づけばその仕草を夢中になって眺めていて、だから身を乗り出していることも、肩やら頭にのっかっていた埃がひらひら彼の上に降り注いでいたことなんて気付きようがなかった。俺の姿に気付いた彼がこちらを見上げる。目が合った。

「なぁ、ここの人か?だったらごめん。鍵、あいてたから、雨宿りさせてもらった」

ひどく口の悪い奴だと、育ちが悪いのだと嘲笑った。
けれど言葉にしようとしたら、口は動くのに喉に思うように空気が通らない。暫く喋るなんてことしてなかったから、詰まったのか、と言い訳をした。俺が困り果てている間にも赤い彼の口が休まることはなかった。

「急に降ってきてさ、最初は通り雨かと思って黙ってて、そこの森で木切ってたんだけど、全然雨脚おさまらないし雷まで落ちてきて当たり見回したらこの城みつけたんだ、けど」

ぴたりと言葉の旋律が途切れなにかと思い彼のほうを見遣れば、彼はこちらをじっと見ていた。彼の大きな瞳が、瞳孔が俺の姿を捉えている。

「君、…喋れないのか?」
















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