▼俺だけを見てろ
めんどくさそうなやつだ。それが第一印象だ。
はじめて会った時、エルヴィンやミケを無視して俺の元に走ってきたその女はナマエと言った。
『兵長!はじめましてナマエです!兵長が大好きです!』
大きな声で叫んだその声は兵士全員に聞こえたんではないだろうか。俺は頭を抱えたくなった。エルヴィンは笑って俺の班員にしようかとふざけた事まで抜かしやがり、新兵は俺の班にはいらない。そう返すとナマエは
『では、リヴァイ班に入れるのを目標に私は頑張ります!』
と笑顔で答えた。
そんなナマエは新兵ではなくなり後輩も出来て、今ではミケの班員になった。エルヴィンにそろそろ俺の班にどうだと言ってきたが、丁重にお断りした。
めんどくさそうなのはいらない。
『兵長!それそろ休憩の時間ですよね。紅茶持ってきました!』
「うるせぇ黙れ。それを置いてさっさと自分の班に戻れ」
時々こうやって俺の執務室に現れる。ミケにやめさせろと言ったがミケは「俺にはナマエをとめられない」とほざきやがった。まあ、紅茶を淹れる腕は悪くはないから紅茶は頂く。ただ、ずる賢い事にナマエは自分の分のカップまで持ってきて一緒に休憩しようとするのだ。
最初は無理矢理追い出した。だが、最近では一緒に俺に見せるべき書類を片手に現れるもんだから、一緒に休憩するはめになる。
『兵長なんと今日は焼き菓子もあります!』
「いらない」
『……わざわざこないだの非番の日に兵長の為にと買ってきたのに』
「俺は甘いもんは好かない」
『そう言うと思って甘くない焼き菓子を選びました』
「いい。お前が食え」
『兵長は受け取ってくれないんですか、この私の想いを!』
「ああ」
『くっ、でもそんな兵長も大好きです』
「……いい加減諦めろ。俺はお前の気持ちには答える気は一生ない」
『ふふ、それでもいいんです。私は兵長がいるからここに来たんですから』
前に一度ハンジや色んなやつらと居るときにハンジがナマエに俺のどこが好きなのかと聞いた事がある。そしたらナマエは『全てです』と笑顔で答えた。ハンジは俺の事を冷やかしやがるから眼鏡を割ってやりナマエを見ると少し恥ずかしそうにしていて、相変わらずめんどくさいやつだと思った。
どんなにナマエが俺の事を好きでも答える気はない。同じ兵士、ましてや部下だなんて後々めんどくさい。
それにいつ死ぬか分からないこの状況でそのような感情は不要である。それでも健全な男ゆえに溜まるものは溜まる。時々商売女を買えばいい。商売女は気が楽だ。愛の言葉もいらない、ただ腰を振って欲望を吐き出すだけでいいのだから。
『兵長?』
「……なんだ」
『上の空でしたけど、どうかしました』
「別に。お前が早く帰らないかと思っていただけだ」
『そろそろ戻らないとミケさんに怒られますので戻りますね。では失礼します。兵長、焼き菓子おいて行くので後で食べてくださいね!』
ナマエは笑う。
俺がどんなに冷たくしようが、適当にあしらってもいつも笑顔で次も相変わらずに接してくる。
テーブルの上に残された焼き菓子を見つめる事しかできなかった。
「……ハァ」
兵長がタメ息をついた。今日はパトロンという名の出資者たちのご機嫌を取るためのパーティーだ。新兵の頃まさか調査兵団の仕事にこのような事があるとは思いもしなかった。
ミケさんの班員になってから本当にたまに私も参加するようになった。それでも私が参加するのは既にいるパトロン主催でのパーティーで、新たなパトロン探しの時は参加することはない。それは……配慮というか詳しくは濁す事しかできない。
パーティーはめんどくさいけれど、私は嫌いじゃない。美味しい料理が食べれるし、綺麗なドレスを着れて普段はできないきらびやかな化粧をできる。
なにより兵長の正装姿を見れるから。
後ろに流された髪型で、燕尾服をまとった兵長はとても素敵なのだ。それだけでパーティーに参加する意味はある。
『兵長、どうです?』
ドレスの裾を広げながら兵長に聞くと、兵長は舌打ちをした。
「孫にも衣装だな」
『それは褒められてるのでしょうか』
「知らん」
『わーん、ミケさん兵長がいじめます』
「大丈夫だナマエ、綺麗だ」
『ミケさんありがとうございます、へへっ』
兵長はリヴァイ班の班員と、私はミケさんと。
団長は補佐さんとで、それぞれに別れてパトロンへ愛想を振り撒く。
私がリヴァイ班に入れば、こうやってエスコートしてくれる役も兵長になれるのになあ、なんて思ってしまった。ミケさんには悪いけど。
調査兵団に入る理由も今ここで頑張ってる理由は全て兵長がいるからで、でも何度想いを伝えても兵長は私の気持ちも受け取ってくれる事はない。
最初の頃は自室に戻って泣く程悲しかった。だけど想いを受け取っては貰えないけれど、想いを伝え続ける事をやめろと言われた事は一度もない。それに私がただの部下でいれば兵長も私をちゃんと部下として扱ってくれる。兵長はなんだかんだ優しいのだ。
いいの、これで。
私が兵長を好きでいれる、それだけでいい。
「今は考え事をするな」
『ごめんなさいミケさん』
「どうせリヴァイのことだろ」
『さすがミケさん』
「お前が辛そうな顔をしている時は大抵そうだからな」
『……あはは』
ミケさんには嘘をつけないなあ、きっとこう考えてのもバレてるんだろうな。
「仕事だ仕事。悩んでるのなら帰ってから聞いてやる」
仕事、そう頭を切り替える。
これは調査兵団にとって大事な仕事なのだから。
「ねえ、君名前は?」
『え、あっと、申し訳ないのですがどちら様でしょうか?』
「ああ悪かった。先に私が名乗らなければいけないね。今日のパーティーを主催した男爵の甥のアーダルベルトと申します」
『アーダルベルトさん?』
「ええ」
紳士らしくとても丁寧なお辞儀をしてくれた。
アーダルベルトさんはミケさんにもちゃんと挨拶をしていて、そもそもミケさんはアーダルベルトさんを知っていたようで私が失礼なことをしてしまったようだ。
しばらく二人が話してるのを適当に相槌を打っているとアーダルベルトさんが私に話しかけてきた。
「ナマエさんはそんなにお綺麗なのに兵士であり、しかもミケ分隊長直属の部下だなんてすごいですね」
『ありがとうございます』
「宜しければ今度お食事にでも行きませんか?」
『嬉しいお誘いなのですが、それは団長であるエルヴィン団長に確認を取らないとなんてお返事してらいいか分からなくて……』
「では、出資の話込みと言うことでエルヴィン団長にお話をつけてきますね。ではナマエさん、一緒に食事できるの楽しみにしております」
そう言ってアーダルベルトさんは団長の元へと向かって行った。
「ナマエよかったな。」
『……なにがですか?』
「あいつは男爵の甥であるが独自のルートを持っている」
『……?』
「つまり、あいつは金があるってことだ。玉の輿だぞ」
『……え、食事ってそういう事なんですか』
ミケさんは鼻で笑った。
「あ?テメェなんでそんな格好してんだ?」
『今から先日のパーティーでお会いしたアーダルベルトさんとのお食事なんです……』
「ほう」
『迎えの馬車待たせてるので兵長失礼します!』
ナマエはドレスの裾をなびかせながら走る。あれじゃ転びそうだ。
「……スンッ」
「なんだミケ。いるならいるって言えよ」
「いや……ナマエもあんなドレスが似合う年頃になったんだなと」
「は?あんな露出したドレスが?まるで商売女みてぇじゃねぇか」
「あれはアーダルベルト氏がナマエへと送ったドレスだ。着ない訳にもいかないだろ」
ミケは顎髭を触りながらいやらしそうに笑う。気持ち悪い。
「ナマエも退団か……寂しくなるな」
「は?」
「リヴァイ、これは調査兵団との取引込みの縁談だ。ナマエは今晩帰ってくるかは知らん」
「お前ナマエに身売りしろと?」
「強制した訳じゃない。ナマエも分かって食事へ行った。ナマエだってもう子供じゃないんだぞ。それにあいつだって報われない相手を想うのはもう限界だろう。」
──自業自得だ
ミケは少しきつい口調で言い捨てどこかへ行った。
自業自得、ミケの言葉が頭の中で回る。
あんな露出したドレスを寄越すやつなんてろくでもねぇに決まってる。胸くそわりぃ。苛立ちが抑えきれない。
『ただいまですーミケさんー?』
ミケさんの執務室を開けると誰もいなかった。今日の報告したかったのにな。
アーダルベルトさんは紳士で、食事のあとアーダルベルトさんと少し屋敷を案内されたあとすんなりと帰してくれた。
私には不釣合なこの大人っぽいドレスを頂いたり、ミケさんの再三言われた「縁談」と言う事にちょっと身構えていただけにほっとしたような。
そして急がなくていいからと言われた。私の気持ちが大事だからと。
正直アーダルベルトさんならいいかなって思ってしまった。だって私の想いは報われないのならせめて調査兵団に役にたちたい。そしたらそれは兵長の為にでもなる。兵長に長く生きて貰いたい、それで私はいいのかもしれない。
扉が開く音がしたからそっちを向くとミケさんじゃなくてなぜにか兵長で、不意打ちの兵長にドキッとしてしまった。
左腕を心臓に当てると兵長は眉をしかめる。
「……テメェ帰ってたならちゃんと報告しろよ」
『ミケさんに報告しようとここに来たんですけど、ミケさんいなくて……』
「ミケなら自室だろ」
『あーじゃあ、団長に報告してきますね』
慣れないヒールのせいで痛い足を我慢して団長の元へ向かおうと兵長の横を通り抜けようとした瞬間、右腕に痛みが走る。
『っ、』
「おい、ナマエ」
『どうしました兵長。ごめんなさい、ちょっと腕痛いです』
痛いですと言ったのに兵長は腕を離してくれなくて、そのままソファーに背中から投げつけられた。全身がソファーに打ち付けられて普通に痛い。いくらソファーとはいえ固いので痣になってそうで不安だ。
『あの、兵長』
「似合わねぇな」
『……え?』
「お前にはこんなドレス似合わない」
『そんなの自分でよく分かってますよ……』
兵長は立ったまま鋭い眼光を私に向ける。
自分で似合わないのは分かっているけど、兵長に似合わないと言われるのは辛い、苦しい。
立とうと体勢を直した瞬間、兵長が右手で私の両腕を頭の腕を固定するように押さえつける。兵長の力に敵う訳もないし、左手で兵長は首に巻かれているクラバットを器用に外す。そのクラバットで私の両手首を縛られ私は何が起きているのか分からなかった。
『兵長……?』
「てめぇはあんなやつに股開いてきたのか?」
兵長は覆い被さるように私を押さえつけ、大きめに開いてる胸もとを指でなぞる。くすぐったくて恥ずかしいし、今の状況に頭がついていかない。
兵長は器用にドレスのファスナーをおろし、ドレスをずらす。
「下着もつけてないのかよ」
露になった私の胸を見て兵長は吐き捨てるように言う。
『このドレス、下着つけれ、ひゃっ、』
胸を露にしている恥ずかしさよりもなぜ下着をつけてないのかと答えようとすると、兵長の指先が私の頂の周りを掠めるから変な声が出てしまった。
身体がぞくぞくする、そしてやっと沸いた私の羞恥心。
恥ずかしい、なんでこんなことになってるの?なんで兵長は触れるの?
「痕ねぇな」
兵長は性行為の痕を探すように指先で私の身体を撫でる。
そもそも兵長は一回の食事で私が相手と身体を重ねるような女だと思っているのか。なら、すごく悲しい。あれだけ兵長に想いを伝えていたのに一切伝わっていなかっただなんて。そう考えると瞳に涙が滲み出す。この数年間がまるで無駄なように思えて私の存在まで否定されているようだ。
「ナマエ」
兵長が私の名前呼ぶ
「腰浮かせ……ちっ、なら無理矢理するぞ」
無理矢理……?
そう思った次の瞬間アーダルベルトさんがくれたドレスはビリビリと破れる音をたててただの布切れと化した。
『へっ、あ、な、んで』
「下はさすがに履いてるんだな……なんだ、あいつとはやらなかったのか」
首を縦に振ると、一緒に涙も溢れる。
「泣くな」
そんなこと言われたって溢れるものは溢れるのだ。
兵長の指先が溢れる涙を拭う。
「お前こんなことされて感じてんのか」
そう言いながら兵長は私の頂を口に含み、右手で私の下着の中心を触れる。そうすると自分でもそこが濡れている感覚が伝わり羞恥に駆られる。
嫌なのに、こんなの。だけど兵長にこうされて悦んでいる自分が確かにいて、兵長が強く吸う度に私の口からは悦びの声が漏れる。
離れたと思うと兵長は私の股の間に顔を近づける。恥ずかしいと思った次の瞬間には守るように纏っていた下着を脱がされていて、自分でさえそんなふうに見ないソコを兵長はまじまじと見つめていてそれだけで、おかしくなりそうだ。
芽を撫でられナカに指が入りクニクニと動かされ私の身体は兵長の愛撫を受け入れ善がる。
「……くそっ、」
表情一つ崩していなかった兵長がズボンと下着を下ろし昂っている熱を取り出す。
初めてみた兵長のソレに、いつかはこういった関係を望んでいたけれどまさかこんな形でなるとは思いはしなかった。
『やっ、やです、へいっ……んっ!あっ、』
嫌だと口にしたものの兵長がそれを受け入れてくれるわけもなく、虚しくも兵長のソレは私のナカに入る。圧迫感に私の呼吸は小刻みになり瞳から涙がどんどん溢れる。
奥まで入ると兵長は動くのをやめて私を見下ろしている。
「ナマエ、お前が好きなのは誰だ」
『へっ、へいちょ、です……っ』
「なのになんでお前は他の男と」
『だって、兵長は、私のこと、好きなんですかっ』
絞り出すように聞いた言葉に兵長は黙る。
無理矢理突っ込まれてこんな風にされて挙げ句の果てには何も答えてくれなくて泣きたくなる。瞳からはもう涙が溢れている。
心、心だ。泣きそうなのは。苦しくて引き裂かれるんじゃないかってぐらいに心臓が痛い。
なのに、こんな事をされているのに兵長を嫌いだと思えない私が一番最低だ。
「さあ、な」
やっと答えたかと思うと、兵長はゆるゆると動きだす。少しずつその動きは激しさを増していく。
私の身体はぐちゃぐちゃだ。苦しくて悲しくてでも心だけじゃない、私は兵長を受け入れている。自分自身がよくわからない。
「余所見すんなこの馬鹿が。お前は俺のことを好きでいりゃいいんだ」
『ふぁ、へいっ、あっ』
「
俺だけを見てろ」
霞む視界の向こうで兵長の声が怒っている気がしたのと、揺さぶられて口からは嬌声しか出せなくて何度も頷くことしか出来なかった。
揺さぶるだけ揺さぶったナマエの身体を抱き上げる。ナマエの意識はない。胸もとにはいくつもの痕が残っている。それをつけたのは紛れもなく俺だ。
無性に苛立った、その苛立ちに任せてナマエを抱いてしまった。
目を覚ました時ナマエはいつものように笑ってくれるのか、それはまだ分からない。
ただ、あの笑顔を失いたくないと思った。
end.
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