緩む口もと
『兵長?』
「どうかしたのか」
『いや、どうかしたのかじゃなくて…。』
兵長は戸惑いも隠せない私に近寄りぎゅっと抱き締めてくれた。
『あの、なんで私の部屋にいるのでしょうか…』
「お前が会いにこねぇから来たんだろう馬鹿」
『だって忙しそうだったから』
壁外調査後、上官の方々は後処理に終われ数日は見るからに忙しい日々を過ごす。
兵長と付き合って初めての壁外調査だった。生きて帰ってこれて、今すぐにでも兵長のぬくもりを感じたかった。だけど忙しそうな兵長を見ていたらそれをもとめるのは悪い気がしてできなかった。
「お前に、会いたかった」
『会ってるじゃないですか』
「そうじゃねぇ」
兵長は私な首もとに顔をくっ付けながら喋るからくすぐったい。
でも、ぴったりとくっついてくれる兵長のぬくもりが心地よくて、本当は私も兵長とこうしていたかったからにやけてしまいそうになる。
「…ナマエ」
『兵長?』
「無事で、よかった」
『ふふ。ただいまです。…兵長?』
「…もう少し、このままでいいか」
『もちろんです』
兵長の抱き締める腕に更に力が入って兵長がこんな風に甘えてくれるだなんて思いもしなかった。だけど、私だけが知れる兵長の一面なんだなって思うとどうしようもなく幸せを感じられた。
緩む口もと