羨望恋愛 | ナノ

07 拒絶の言葉

そう頻繁に練習を見に来るとは思っていないけれど、心のどこかで期待している。
サッカー好きの彼女が、サッカーを見にここへ来るのではないかと。
あの時のように、食い入るようにグラウンド全体を見つめる彼女の姿を探す。

今、サッカーをやめてしまっていても、ここにきて何か変わってくれたら。
俺程度の力でおこがましいけれど、俺のプレーを見て以前のような未来を夢見るあの瞳を取り戻してくれたらと願う。

それでも、淡い期待は毎回打ち砕かれる。
今日も彼女の姿はない。

「椿、この間の女の子に何かしたのか?」

少し肩を落としたところで世良さんにそう話しかけられ、リカちゃんの話だとすぐわかった。

「世良さんもしかして」
「どっかで見た顔だなーって思ったの、近所のドラッグストアの店員だったからなんだよ。
それで、練習見に来いよって言ったら、もう行きませんってさ」

お前、彼女に嫌われるような事したんじゃねぇの?と眉を顰めてこちらを窺う世良さんに飛びついた。

「世良さん! そのお店どこか教えてください!」


−−−−−−−−−
世良さんに教えてもらったお店に近づくと、見知った後ろ姿が目に入った。
何度彼女の後ろ姿を追うのだろうか。

「リカちゃん!」

脚を止めた彼女がこちらを振り向くことはなかった。
急いで正面へ回ると彼女は難しい顔をしていた。

「椿君、こんな所まで何の用なの?」
「えっと、世良さんから、もう練習も見に来ないって言ってたって聞いて、」

彼女からは盛大なため息が落ちた。

「ごめん、リカちゃん! 何か俺がしたんだよね?」

焦ってそう謝罪すると、彼女から椿は悪くないよと。
じゃあどうしてとポツリといえば、彼女の自嘲気味に笑った。

「ねぇ、どうしてそんなに私に関わるの?」
「え?」

「私、椿君にとってただの同級生、だよね」

その言葉にズキリと心が痛んだ。
ただの同級生。
確かにそれ以外に2人の関係を表す言葉は見つからない。
でも、俺からしたら――――
その先は喉の奥で突っかかって言葉にすることが出来なかった。
下唇をかみしめていると、彼女からはため息が落ちた。

「あのさ、自意識過剰なのかもしれないけど、もしかして私の事好きなの?」
「――っ!」
「あぁ、図星なんだ」

はっきりとそう言葉にされて、動揺が隠せない。
何か言わなきゃと思っても頭の中から言葉になるような言語は浮かんでこない。

「どこが好きなのか、わからないよ。 こんな私、どこがいいの」

その疑問にもまともな言語は発せなくて、呆れた彼女からため息とともにまぁどうでもいいかと自己完結の言葉を漏らした。

「で、どうしたら諦めてくれる? どうしたら私に関わらなくなる?」

嫌いだと決定的な言葉はないにしろ、明らかな拒絶を示されて脚がすくむ。
追い打ちをかける様に、拒絶の言葉を吐き続ける。

「私を好きって気持ちにお別れするために、最初で最後のキスでもしてあげよっか。
それで足りなきゃホテル行って本番でもいい。 この身体好きにすればいい。
…私の事、忘れてくれるなら」

「そ、んな」

ようやく出たその声は震えていて。
だけど、ちゃんと伝えなきゃという気持ちが、整理されない頭の中から無理やり言葉を引っ張り出す。

「リカちゃんの身体が好きなんじゃなくて!
あの時みたいに、夢を追って、きらきら、生き生き、サッカーしてたリカちゃんが好きで、」

まとまらない言葉達は段々と弱弱しく勢いをなくしていく。
それでも続けようとした。
もう一度サッカーしてほしい。あの頃のリカちゃんに戻ってほしくて。
しかし、彼女は続く言葉を遮った。

「私にはあの時っていうのがいつかわからないけど、思い出って美化されちゃうものだよ。
今の私はそんな純粋な人間じゃないし、もうサッカーもしてない。
これからも、サッカーはしないよ。 もうすっぱりやめたの。
だから、今も私の事好きなんて言わないで。
忘れて。 私に関わらないで」

「…どう、して、」

そんなことを聞いたところで、嫌いだの同級生としか見ていないだの、そういった言葉が返ってくることは目に見えているのに。
しかし、彼女の言葉は予想もしていないものだった。

「・・・椿君を見てると凄くつらいんだよ」

ゆがむ彼女の表情。
いつも笑っている彼女の、泣きそうな顔。
けれど、それは一瞬のことだった。

「だからもう、私の前に現れないで」

冷めた笑みを浮かべ彼女はそう言った。
それまでの拒絶の言葉で竦み上がった足は、地に根を張ったように動かなくなっていて。
早足で去る彼女を、俺は追えなかった。


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椿、頼むからしゃべってくれw
まぁしゃべらせないのは雪野のせいなのですが…;


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