05 閉めても閉めても
この2年間全くと言っていいほどサッカーに触れてこなかった。
少しでも触れれば、未練がましく夢に縋り付いてしまうと感じていたから。
先日、2年も経ったしもう大丈夫だろう。とほんの少しの好奇心と出来心でサッカーに触れた。
初めて、自分の根幹部分の諦めの悪さを思い知った。
まだ夢を諦めきれていなかった。
椿君に再会してからというもの、サッカー関係のモノたちがやたらと目につく。
心が諦めたくない!と反応するのを意識的に抑えつけるように、講義と趣味とバイトに今まで以上に力を入れた。
このまま気持ちに蓋をしてを気づかないふりをして生きていきたいのに、突然力ずくで蓋は開けられる。
「あ、お前…」
「は?」
いきなりのお前呼ばわりに女子としていかがなものかと少々後悔するくらい低い声が出た。
しかも、お客様なのに。
「どちら様、でしょうか…?」
バーや居酒屋ならまだしも、こんなドラッグストアのレジで会話するようなお客との面識はない。
接客としては駄目な行為だとは思いつつも、怪訝な顔を向けた。
「覚えてねーのかよ! ほら、こないだETUの練習見に来た時さー」
「・・・あー」
ぐるりと思考をめぐらせ、2週間程前の記憶にたどり着く。
そういえばやたら小さい人がいるなーと思ったけれど、その人が今目の前にいる人なのか。
「あれから見に来ねぇじゃん、椿となんかあったのか?」
人の心の中なんてお構いなしに、触れてほしくない話題にずかずか踏み込んでくる。
遠慮という言葉と、初対面だという認識は彼の中にはないのだろうか。
「もともと椿君とはただの同級生ってだけで、」
「そーかぁ? お前を見つけた時の椿の反応、尋常じゃなかったぞ?」
ただの同級生には見えなかったけどな、と首をかしげる。
椿君ががどんな反応をしていたのか判らないから、この言葉にどう応えるのが正しいのかわからない。
同級生という以外に彼との関係を表す言葉を私は知らないのだから。
口をへの字に曲げながらも、レジ作業は進む。
「ま、なんにもないならいーや」
その言葉とともに数枚の札が出され、会計を済ませる。
これで、解放される。
もう、関わらないで。また、蓋は閉めなおすからこれ以上抉じ開けないで。
そんな私の心など知る由もなく、にかっと明るい笑顔で彼は残酷な言葉を吐く。
「椿が練習ん時とかお前の事探してるから、また見に来いよな」
これ以上、みじめになりたくない。
椿君は、凄いと思うよ。 同級生だし友達として、応援したいと思う。
でも同級生で友達だから、妬ましくもある。憎くもある。
私にはなかった才能を持っていたことが。
私には掴めなかった夢に向かって突き進んでいる姿が。
「・・・もう、見に行きませんから」
ありがとうございましたという言葉とともに、レジ袋が差し出される。
これ以上触れるな、関わるなと、営業スマイルが語っていた。
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世良が見たことある顔だなーと感じたのは、近所のドラッグストアのレジで顔を見たことがあったせいです。
1度忘れていたことでも思い出して意識すると、その関係のCMとか雑誌とか目につくし、以外に身近に関係するものがあったりしません?
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