羨望恋愛 | ナノ

01 音もなく落ちてきた箱

じりじりと容赦なく照りつける太陽、焼けたアスファルト、鳴り止む事ない蝉の声、無条件で流れ落ちる汗。
全てにうんざりしながら冷房の利いているであろう我が家を目指す。

「あっつー…」

両親がちょーっと迎えに来てくれれば、こんな思いしなくても済んだのだが、なんでも、今日はそれどころじゃないらしい。
・・・半強制的に帰省させられて、この待遇は何なのか。
ため息が無意識に漏れると、ずしりと荷物と足取りが重くなった。
さっさと帰ろうという気持ちをこめて荷物を担ぎなおすその横を、元気な子ども達が走りぬけていく。颯爽と追い越された。
彼らはこの暑さなど一切感じていないかのように元気だ。

「ちびっこは元気だなぁ…」

先を行く少年たちは一人の男性に群がっていく。
のんびりと歩を進めれば、その男性の面立ちに懐かしさを感じた。

「…松並先生?」

無意識に口からその言葉が落ちた。


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数十分後、私は心地よく冷房の利いた職員室にいた。

「校長先生! お久しぶりです―!!」
「おお! 雪野か! 本当に久しぶりじゃな―!」

かわっとらんのうなんて校長は言うが、さすがにそれはない。
10年近く経って変わってないはあり得ない。
見える部分も、見せない部分も。

「そういえばお前、県外の高校行ってたよな? 今はどこにいるんだ?」
「今は東京で大学生やってますよー」

東京という言葉に校長が激しく反応した。
興奮しているのか、鼻息も少々荒くなっていた。

「あれか、椿とは連絡取ったりしてるのか?」

校長の口から出た懐かしい名前にドキリと心臓が跳ねる。
小学校の同級生。
ただそれだけではない感情のせいで、名前だけでこんなにも動揺する。

「椿君と? 連絡先知らないので取ってませんけど…、なんで椿君が?」
「なんでって、お前知らないのか?」

松並先生は呆れたような顔を向けた。


「あいつ、プロになって日本代表にまで選ばれたんだぞ!」


その言葉を理解するのに、いや理解させるのに時間がかかった。

「あの、椿君が…?」

それは、例えば陸上とか別のスポーツじゃなく、さらに言えば、ビビり日本代表とか、そういうとんでもなく馬鹿らしい話でもないんだよね?
目の前では校長が自分の事のように自慢げに椿君の事を語るが、それは耳に入っても頭に入る事はなく、聞き流される。

椿君がプロサッカー選手。 椿君が日本代表。

それだけで頭がいっぱいだった。

「実はな、これから校長と椿のいるETUの試合をみるんだよ。 雪野も見ていくか?」

突拍子もなく、突然に。
目の前に出された・現れた箱。
懐かしさを感じてしまえば、それを手に取らずにはいられなかった。


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わあぁあああ!と画面の向こう側の興奮が伝わってきたかのように、此方側の大人3人も大興奮だ。
あの椿君がこんなに堂々と自信を持って自分のプレーをする姿を見て、大人げなく声をあげてしまった。

「すごい、ホントすごい!!」

見ているだけで心の踊るプレー。
どくんどくんと自分の中で何かが動き出した気がした。

画面の中には自分のあきらめた夢を実現する同級生。
チクリととげの刺さった気もしたけれども、観戦に没頭することで、それは気のせいだと無視を決め込んでやった。

ETUか…。
同じ都内にいるなら、練習、見に行ってみようかな…。


この2年間、そっと仕舞っておいたパンドラの箱。
つい出来心でそれを手にとってしまった。
そして今、その蓋に手をかけようとしている。

中に残るのは、一体何か。
誰も知らないのだったら、恐れずに開けてみるのもありかな?

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椿連載スタートです!
おどおど椿君が最近かっこよくなってキュンとしたので始めてみました。
ちょっと主人公ダークな感じ入ってくるので、幸せになるまでは遠い、かもしれない。
(勝手に動いていくんで、どうなるかも雪野にはある程度しか予想できません;)
サブタイトル:どんなに重力に捉われようと君の肩越しには未来が見える は、おなじみLUCY28からです。(linkから飛べますので是非!)


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