07 一番酷い人
電車に乗りながら、涙を流す姿は異様だっただろう。
腫れ物を扱う様に誰も近づかなかった。
姉からの告白を聞き、親類での宴会の手伝いは放棄したため、持田さんの家に戻っても誰もいなかった。
靴もストッキングもスーツも脱ぎ捨て、自室のベッドに倒れ込む。
スーツ、掛けなきゃ皺になると思ったけれど、動く気にはなれなかった。
お姉ちゃんは狡い。
私の気持ちには全く気付かないで、幸せになるなんて狡い。
私はこんなにも苦しんでるのに。
先輩は酷い。
私の気持ちを知っていながら、それをなかったことにして、幸せになろうなんて狡くて酷い。
シーツにシミが出来ていく。
嫌い嫌い、大嫌い。
でも、一番嫌いなのは、自分だよ。
大好きで大切な人の幸せを喜べない自分が、一番酷い。
あぁ、このまま醜い感情が夢に溶けて消えてしまえばいいのにと、目を閉じた。
‐‐‐‐
「起きろ」
「いっ!」
頬に強い痛みが走り、真っ暗だった意識が飛び起きる。
たぁーと、右頬を押さえながら上体を起こすと、ベッドの横に不機嫌な雰囲気を垂れ流す持田さんがいた。
「ひでぇ顔」
人の顔叩いて起こしておいて、それはないと口を閉ざし睨みをきかすと、持田さんは鼻で笑う。
「いー眺め」
持田さんの言葉と下がる目線で、自分の肝が冷えていく。
「な、何見てるんですか!?」
必死に布団をかき寄せる。
下着姿で睨みつけていた姿はさぞかし滑稽だっただろう。
「いいもん見せて貰ったし、あと10分待ってやるよ」
「は?」
部屋から出る持田さんの背中からは、何を考えているのか全く解らない。
「あと10分でそのひでぇ顔と服、どうにかしろよ。 飯行くぞ」
‐‐あとがき‐‐
短いなぁ。
幸せを呪う自分に苛立つヒロインと、その荒れ模様にほっとけなかった持田さん。
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